黒蝶Ⅱ -ふたりの総長に奪われて-
いなくなった、って。
「どこに? お前と一緒だったんじゃねえの?」
『電話するのに一瞬目離した隙にヤられた。
何度連絡しても雫からの応答がない』
「ちょっとお前、呑気すぎない?」
最初はちょっとした嫉妬だったはずのものが、醜く焼け焦げる。
明らかにトーンの下がった俺の声で室内の空気が悪くなったのを感じるけれど、仕方ないだろ。仮にも関東南のトップ張ってる男だぞ。
「女に浮かれて大事なもん守れねえの、ダサいと思うけど」
まあ八つ当たりと言われたら八つ当たりだ。それは認める。
俺だって雫ちゃんと一緒に過ごしたいって思うし、そのときは何かに邪魔されるようなヘマしない、なんて言うだけもタダだし。
『優理、』
「そんなことより雫ちゃんはー!? っどこ行っちゃったの!?
連絡ないってことは連れ去られた可能性もあるんでしょ!?」
『……心配ねえよ。大体の見当はついてる』
はあ、とまつりがため息をついたのが電話越しでも聞こえる。
なんだよその面倒そうな素振りは。
……ああ、でもそうか。
本当に思い当たる節もなく雫ちゃんが連れ去られていたとしたら、きっと。
『──全員、今すぐ黒百合の倉庫に向かってくれ』
まつりは全力で探し出すはずだもんな。
俺らへの連絡なんて、後回しにしてでも。