黒蝶Ⅱ -ふたりの総長に奪われて-
「はろはろー、まつりー」
鮮やかなオレンジ色の髪を揺らしながら階段を駆け下りてくる女。
「蜜柑」とまつりに名前を呼ばれた彼女は、「ごめんって」と軽く謝罪した。
「そんな怒んないでよ、カエデはあたしに頼まれてまつりに電話しただけだもん」
「雫は?」
「上にいるよー。いまダルマ撫でて遊んでる」
「……何がしたいんだお前ら」
あー……うん。これはため息をつきたくなるというか、なんというか。
黒百合は、何を隠そう彼岸花の傘下チームだ。だから雫ちゃんがいなくなっても、まつりは焦りも動揺もしていなかったらしい。なんだそれ。
「だって見たいじゃん、まつりのカノジョ」
「……お前らがこっち来ればいいだろ」
「えー、まつりが焦るとこが見たかったのにー」
むすっとくちびるを尖らせる蜜柑。
カエデの幼なじみで彼女の蜜柑は、意思の弱めなカエデよりもしっかりしてる。
「ねえ蜜柑ちゃ……あ」
どちらかといえば黒百合はもう、カエデではなく蜜柑を筆頭にしたチームだ。
オシドリ夫婦みたいなふたりだけど、蜜柑の提案にカエデが逆らえなかった結果らしい。
……人騒がせな。