黒蝶Ⅱ -ふたりの総長に奪われて-
「蜜柑。雫に余計なこと話してねえだろうな」
「あたしがそんなダルい女に見える?」
「はっ、念のためだよ」
……そういや。
まつりは基本的に女の子と仲良くしねえけど、蜜柑とは普通に話してる。まあ、だからといって何もねえし、蜜柑の性格ゆえにだとは思うけど。
「じゃね、雫ちゃん。
ほらカエデ、いつまでめそめそしてんの!」
「め、迷惑かけてすみませんでしたぁ」
笑顔の蜜柑と半泣きのカエデに見送られ、黒百合を後にする。
相変わらずだな。
……っていうか、俺ら来る必要なかったんじゃね?
まつりだけで全然解決できる話だったじゃねえか。
「何にもなくてよかった。雫ちゃん、怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫。
どっちかというと、わたしが勝手について行っちゃっただけだし」
蜜柑ちゃんに声掛けられて、と。
特に反省の色の見えない彼女の姿にまつりはため息をついて「お前な」と零しているけれど、雫ちゃんはケロッとしていた。……何も気にしてない、のか?
前々から彼女は肝が据わっているように見えるけど。
俺らのことを知って驚くこともなければ怖がることもしない。そしてもちろん、媚び入るようなことだってしない。
「稜介。このあと空いてるか?」
「このあと?
ごめん、父さんに呼ばれてるんだよね」