ツンデレ騎士様が溺愛してきます。

10:一ミリも。




 昼食を終えて…………終えて?
 えーと、いつもは何をしていたでしょうか?
 部屋で綻びたものを縫ったり、ドレスにレースやリボンを付けてリフォームしてみたり、部屋の掃除をしたり、お父様の執務のお手伝いをしたり…………ですわね?

 どう考えても、全てここでは出来ないことばかり。
 出来ないというよりは、する必要のないことばかり。

「イレーナ、暗い顔をしているがどうしたんだい?」

 食後のお茶をいただきながら考え事をしていましたら、向かい側に座っていたラルフ様に心配されてしまいました。
 理由を話すと、クスリと笑われました。

「本は読むかい?」
「えぇぇっと、恋愛などの物語でしたら」
「ふむ。執務室に何冊かはあった気がするな。好きに入って、持ち出して構わないよ」
「わぁ! ありがとうございます!」

 そういえば、ラルフ様はお仕事は大丈夫なのでしょうか?

「君は本当に優しいな。今日は休みに()()()から大丈夫だ」

 ――――あ、された、なんですね。

 ご迷惑をおかけします、と頭を下げるとまたもやクスリと笑われてしまいました。
 ちらりとラルフ様のお顔を見ると、青空のような瞳を細めて破顔されていました。
 ヤヴァいです。眩しいです。目が潰れます。

「イレーナは可愛…………はぁ。どうしてこうも歯の浮くようなことばかり…………」
「だ、大丈夫です! 呪いのせいと理解しておりますから! 全然、全く、一ミリも、受け取りませんし、気にしていませんから!」

 ガタリと立ち上がり、両手を拳にして、力強くそう答えました。

「…………一ミリも。ふぅん?」

 ――――あら?

 何故かラルフ様が剣呑な空気を出されています。

「えぇと? あの?」
「…………私用が出来た。騎士団に戻る」
「え、はい。お気をつけて!」

 ラルフ様はこちらを振り向かずに、颯爽と食堂を出ていかれました。
 侍女のセルカさんとメリーさんが気にしなくていいと言われるので、頷きはしましたが、ちょっとだけ気になってしまいます。
 怒らせてしまったのでしょうか?



 ◇◆◇◆◇



「あれ? 副隊長、今日は休みでは?」
「副隊長! あの噂は本当なんですか⁉」

 部下たちが次々と話しかけてくるが、隊長室に急ぎの方用事があると言って適当にあしらった。

「ん? よぉ、どうした?」
「どうしたではありません。早急に解呪の依頼を――――」
「あー? 無理無理。魔女様が絶対にしない、とお前より先に宣言されたんだとさ」

 ――――クソ。

「何だよ、可愛い子だったじゃねぇか。お前、気に入ってんだろ?」
「…………ですが、一ミリも受け取らないと言われたので」
「ぶぶぉぉぉぉ! まじかぁ! あの、ラルフがフラれるとか!」

 笑い事ではない……歯の浮くようなセリフが口から勝手に出てくる恐怖を知らないだろう。
 彼女を見ると、脳内にふわりと言葉が浮かぶ。
 それは、胸の内に閉じ込めておきたかった言葉でもある。

『柔らかい頬に手を添え、艶めく唇を奪いたい』

 誰にも伝える気のない言葉化が、本人に届いてしまいそうになる。

 ――――なんとかしなければ!


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