ツンデレ騎士様が溺愛してきます。

12:『気分が優れない』

 


 ラルフ様と侍女のお二人には大変申し訳無いのですが、夕食は部屋で取らせていただきました。
 『気分が優れない』という嘘で。

 相変わらず夕食もとても豪華で美味しかったです。
 ベッドに移動し、勢い余って持ってきてしまった絵本のページを捲ります。
 何度見てもワクワクとする物語。
 シルバーブロンドの短い髪と――――。

「あ……」

 この主人公の男の子、ラルフ様と同じ髪と瞳の色です。
 ラルフ様を初めて見た時に、無条件にいい人そうだと受け入れられたのは、もしかしてこの絵本のおかげなのでしょうか?
 もちろん、ラルフ様本人もお優しく素敵で、誠実な方でしたが。

 今更気づくなんて、私は本当に鈍臭いです。
 こんなんだから、裾を踏んだり、事件に巻き込まれたり、たたらを踏んだり、下っ腹揉まれたりたりたり……。
 しょんぼりです。
 


 翌朝も、これまた『気分が優れない』戦法でやり過ごしました。

 お昼は侍女のお二人と使用人用の休憩室でいただきました。
 ラルフ様の幼い頃の色んなお話を聞けて、とても楽しい時間でした。
 食後は執務室に入らせていただき、数冊の本をお借りしました。
 夕食はお二人に部屋で取りたいとお伝えすると、少しだけ悲しそうなお顔で頷かれました。

「ごめんなさい…………」
「イレーナ様、謝らないでください」
「イレーナ様、大丈夫ですよ」

 申し訳なさすぎて、涙が溢れそうになりましたが、ぐっと我慢です。
 泣きたい思いをしているのは、好きでもない女に愛の告白をし続けてしまうラルフ様なのですから。

 結局、三日目も『気分が優れない』で、朝夕は部屋に籠もり続けました。


 部屋でのんびりと本を読んでいましたら、なんだか廊下が騒がしくなりました。どうしたのでしょうか?
 確認をしようかとソファから立ち上がった瞬間、部屋のドアが力強くノックされました。

「イレーナ」
「……」
「イレーナッ!」

 ラルフ様のお声なのですが、何だか剣呑な空気が感じられます。正直に言うと、少し怖いです。
 返事をしようか迷っていると、ガチャリと鍵が外側から解錠され、ラルフ様が大股で部屋に入って来られました。

「嫌い、なのか? 顔も見たくないほどに?」
「え?」
「ばあやたちと食事したと聞いた。私とは食事したくないとも」
「あ……それは…………」

 ラルフ様の為にだったのですが、そうと宣言するのも何か違うと思い、結局何も言えぬままに口を噤んでしまいました。

「…………君からあの魔女に伝えてほしい。そうすれば開放されるから」
 
 ――――私から、解放される、から?


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