ツンデレ騎士様が溺愛してきます。
13:逃げなさい。
ラルフ様は私から解放されたい。
それは当たり前のことなのに、私の心臓に深く深く突き刺さりました。
喉の奥が苦いです。
「屈強な男でも心折れるほどの、恐ろしい行為だったと思う。私のことも恐ろしくなったのだろう?」
ラルフ様が沈痛な面持ちで話を続けられました。
騎士団の各隊で連携が取れていなかったこと、私を拷問したあの男性が暴走したこと、それを止められなかったことを謝られました。
「泣かせたくは…………なかった。傷付けたくはなかった」
ラルフ様の右手がゆっくりと伸びて来ます。
いつの間にか左頬を伝っていた涙をそっと拭われました。
「好きだ――――ックソ。これは私の言葉だとは思えない」
――――え?
「こんなタイミングで言いたくはない。丁寧に接したいが、それが出来そうにもない。君を怖がらせたくはないんだ」
――――え、え?
「だから、逃げなさい。私から」
ラルフ様が右手で頬を撫でたあと、親指でふにりと下唇をなぞりました。
背中が、腰が、ゾクリとしました。
ラルフ様の真剣なお顔と、猛獣のように光る瞳で、『食べられてしまう』という言葉が脳内に浮かび上がりました。
「お、王城に行かせてください」
「…………ん。明日の朝、手配する」
ラルフ様が寂しそうに微笑まれたあと、もう一度頬を撫でてから部屋から出ていかれました。
翌朝、ラルフ様より馬車の準備が出来たと告げられました。それとともに、同乗していいかとも尋ねられ、勿論ですと答えると、また謝られつつ頬を撫でられました。
「可愛――――っ、ハァ。気にしないでくれ」
いくら魔女様や王女殿下のご命令でも、これは可哀想過ぎます。
なんとかしないと!
王城にある魔女様が住まわれている塔の、魔術や錬金に関する本や道具が所狭しと置かれている『研究部屋』という場所に通されました。
魔女様は今日も妖艶な美しさがあります。真っ黒な髪に真っ赤なドレスがとても映えていました。
「失礼いたします」
「こちらにいらっしゃいな。で、頼みって、なぁに?」
「あのっ――――」
好きでもない私に愛を囁やき続ける苦痛などを滾々と訴えました。
ラルフ様を解放して欲しい。
そもそも、私が実家の部屋に閉じこもっていれば良かったのです。
格好良い男性に好意を寄せられていて、護ってもらえるという、まるで子供向けのお伽噺のような状況につられて、流されて……ついつい甘えてしまっていました。
「本当に申し訳ございませんでした」
ラルフ様と魔女様に頭を下げて、滲んだ涙は瞬きで散らしました。
「……ふうん? ラルフ、貴方の意志が弱いせいでこんなことになったみたいよ?」
「へ? で、ですから、私が――――」
魔女様が、ハァと大きな溜め息を吐かれました。
「あのね、私が掛けたのは『呪い』じゃなくて、『呪い』なのよね」
――――はいぃぃ?