恋がはじまる日 (おまけ)

「なんだその声」


「ふ、藤宮くん!」


 頬に触れた冷たいものはどうやら藤宮くんの手だったようだ。


「び、びっくりしたぁ~!ていうか藤宮くん手!めちゃめちゃ冷えてるよ!これ!これ握って!」


 藤宮くんの冷たすぎる手に、つい先程買ったばかりの温かいココアを押し付ける。


 藤宮くんは今登校してきたばかりのようだ。もしかして椿はそれに気が付いて、気を遣ってくれたのかな?


 カチっと音がして、私のココアに藤宮くんが口を付ける。


「あー!私のココア!」


「うまい」


「もう!」


 先に飲まれてしまったココアを渡され、一瞬それを見つめてから、私も思い切ってそれに口をつけた。


 初めて飲み物をシェアした時は、間接キスなのでは…とドキドキしすぎてなかなか飲み進められなかったけれど、今は少しだけ、ほんの少しだけ抵抗感が薄れたような気がする。当然まだまだドキドキはするのだけども。


 藤宮くんはやっぱり成績がよかったみたいで、私達よりも先に大学を決めていた。授業中は寝てることが多かった気がするけど、いつ勉強してたんだろう?


 頭のいい人はきっと要領もいいんだろうなぁ、と定期考査直前はいつも藤宮くんを羨ましく思いつつ、勉強を見てもらったっけ。


「藤宮くんが学校来るなんて珍しいね」


 彼は自由登校を機に、ほとんど学校に来ることはなかった。必要ないから来ない、ということなのだろうけれど、ほぼ毎日顔を合わせていた私にとっては、少し寂しいものがあった。


 だから今日は会えてものすっごく嬉しいのだ。


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