恋がはじまる日 (おまけ)

 あっという間に放課後になってしまった。


 ついこの前まで一日がなんだか長くて、次の授業で当てられたら嫌だなぁとか、宿題の期限に追われていたりだとか、部活行かなきゃ!とか、何だか慌ただしくも充実した日々だったのだけれど、特にすることもなくなった今、時は穏やかに流れているのに、何だかあっという間に一日が終わってしまう。


 きっとこうしてあっという間に時が流れて、三月になって、卒業式になってしまうのかもしれない。そう思うと、急に寂しさが込み上げる。高校生活も、あとひと月で終わりなのだ。


「俺、もう帰るけど」


 そう藤宮くんに声を掛けられて、はっとする。


「あ、うん!私も帰る」


 教室を出ると眩しいくらいの夕焼け空だった。先程まで雪が降りそうな暗さだったと思ったけれど、廊下がオレンジ色に染まっている。


 二月ってまだまだ真冬なのに、何だか日が伸びた気がするなぁ。陽が落ちるのもあんなに早かったのに。きっともう、春はすぐそこに迫っているんだろう。なんだか今日はしんみりしてばかりだ。


「あ…」


 ふと廊下の一角で立ち止まる。


 ここ、この場所。


 一年前のちょうど今日、バレンタインデーの日。


 私はここで、藤宮くんに想いを伝えたんだよね。あの時はお互い勘違いをしていて、お互いがお互いのことを好きだなんて、思ってもみなかったっけ。


「佐藤?」


 急に立ち止まった私に、先を歩いていた藤宮くんが振り返る。


 私は鞄から昨晩作ったチョコのパウンドケーキを取り出した。綺麗に三枚に切って、可愛くラッピングしたものだ。


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