恋がはじまる日 (おまけ)
「藤宮くん!ハッピーバレンタイン!」
私が藤宮くんの目の前に包みを差し出すと、彼はいつかのようにそれをきょとんと見つめた。するとすぐに表情が柔らかくなって
「ああ、今日はバレンタインか」と呟いた藤宮くんは、「ありがとう」と受け取ってくれた。
「ねえ、藤宮くん覚えてる?去年の今日、ここで想いを伝え合ったんだよ」
「覚えてる。忘れるわけないだろ」
藤宮くんの返答に、今度は私が目を丸くする番だった。
意外…。藤宮くんのことだから、「そうだったか?」とか平気で言いそうだと思ったのに。
思っていたことが顔に出ていたのか、藤宮くんは呆れたように浅くため息をつく。
「お前、また、」
「失礼なことは考えていないですとももちろん!」
私は慌ててそう取り繕う。
藤宮くんは、ほんとかよ…みたいな目で私を見ていたけれど、とりあえずにっこり笑って誤魔化した。
「藤宮くんも覚えててくれてすごく嬉しい!来年も一緒に、…」
来年も一緒にお祝いしたいね!
そう言おうと思ったのに、何故だかそこで私は言葉を飲み込んだ。
私はこの先も、藤宮くんと一緒にいられるのかな?
高校を卒業して、大学生になって、環境も人も全く変わるのに、これからも私達は変わらず一緒にいられるのかな。
漠然とした不安が襲ってくる。
同じクラスで隣の席。学校に行けば、藤宮くんに会えたけれど、これからは?
これから私達はどうなるのだろう?
きっと大学生は忙しい。勉強もアルバイトも、もしかしたらサークルに入ったりするかもしれない。
それなのに、今と変わらず、藤宮くんと一緒にいることなんて本当にできるのだろうか。