恋がはじまる日 (おまけ)
そうして迎えた6月6日。藤宮くんのお誕生日当日。
放課後、ホームルームが終わると私は颯爽と彼の席へと飛んで行った。
二年生の頃は席が隣同士だったけれど、三年生になって少し離れてしまった。
授業中、彼の背中を眺められるのは嬉しいけれど、やっぱり隣がよかったなぁと思わざるを得ない。
「藤宮くん、一緒に帰ろ!」
私が嬉々として声を掛けたことから、この後お誕生日のお祝いをすることが分かったのだろう、彼はやれやれと言ったような表情を浮かべた。それでも少しだけ嬉しそうに微笑んだのを私は見逃さなかった。
今日は絶対に喜んでもらうんだ!
「到着!ここが私の家だよ!」
学校から歩くこと二十五分、私の家へと到着した。行先は告げていなかったのだけど、嫌じゃなかったかな。
「藤宮くんのお家から遠いのに、わざわざ来てくれてありがと!」
「え?ああ…」
きょとんとうちを見ていた藤宮くんは、そう短く返答する。
「さ!上がって!」
藤宮くんは何を迷っているのか、少し戸惑った様子で私の後をついてきた。
玄関のドアを開け、中に声を掛ける。
「ただいまー!」
するとリビングにいたのであろうお母さんが、スリッパの音をパタパタさせながらエプロン姿のまま玄関にやってきた。
「おかえり!あら!」
いつものように返事をしてくれながらも、私の隣に立っている藤宮くんを見て驚いたようだった。
「美音が椿くん以外の男の子のお友達を連れてくるなんて珍しい!」
「うん!同じクラスの藤宮くん」
そう紹介すると藤宮くんはペコリとお辞儀した。
「藤宮です、お邪魔します」
「実は、お付き合いしてまして…えへへ」
そう私が照れながらも報告すると、お母さんは「あらあらあらあら!」と手を口元にあて嬉しそうに笑う。
「そうなの!」
お母さんはこの手の話が大好きなので、質問攻めにされる前にさっさと話を進める。
「今日藤宮くんお誕生日なんだ!部屋でお誕生日会するから」
「そう!ゆっくりしていってね」
「藤宮くん、私の部屋、上がって左だから先に行ってて」
そう藤宮くんを促し、私はキッチンへと向かう。
昨日帰宅してから作った、苺もりもりのショートケーキを冷蔵庫から取り出す。
中央には、『藤宮くん ハッピーバースデー』の、チョコレートプレートを乗せた。
大きめのお盆にケーキと、ナイフフォークに取り皿、淹れたてのコーヒーを入れたマグカップを乗せて、私は階段を上がった。