幼馴染に惚れ薬を飲ませたら溺愛が始まった件
『わすれものしたの?ほら、かしてあげる』
『あんなちゃんをいじめるな!』
『ほら、こっちだよ、あんなちゃん』
『あんなちゃん、だいすきだよ』
『わたし、しょうらい きょうやくんとけっこんする!』
ーーーーーーーーずいぶん懐かしい夢を見た気がする。
小学一年生だか、それくらいの記憶だ。
パチリ、と目を開けると、窓から朝日が差し込んできて、眩しい。
青空が高くて、快晴だなぁ、って思う。いい天気だ。
・・・・・・懐かしい、夢だったな。
私はまだぼーっとしながら、ベッドでゴロゴロとさっき見た夢を思い返していた。
・・・・・恭弥と私は、小・中・高と一緒だった。
小学校低学年の頃の恭弥は、優しくて、しっかり者で、よく他のクラスメートに叩かれたりする私を庇ってくれた。
忘れ物とかもサッと貸してくれたし、すごく頼りになったのだ。
・・・だから、ちょっとだけ、・・・・恭弥のことは、実は、昔、好きだったり、する。
でも、中学生になった頃から、恭弥と私の関係は変わった。
成績がクラスで貼り出されたりすると、恭弥は結構上の方だった。
サッカーでもレギュラーになったりして、大人気だった。
中学から一緒になった他の子達からモテ出した。
よく、「蓮見さん、桜木くんと仲良いんでしょ。連絡先聞いてよ」なんて言われたっけ。
それを恭弥に伝えると、すごく機嫌が悪くなって、一時期は全く喋らなかった。
同じクラスでも、ちょっと無視されていた時期もある。
そのあとは、ことあるごとに私に突っかかってきて、バカにするようになった。
髪がボサボサだとか、字が汚いとか言ってくることもあったし、
昔の恥ずかしい思い出を言いふらされたこともあった。
教科書に落書きされたこともあるし、先生に告げ口されて怒られたこともある(何を言われたかは忘れたけど)。
昔はあんなに優しかったのに、ほんとに意地悪になって、嫌いになった。
高校は、レベルも違うし、ちょっと遠い高校に行くからもう会うことはないと思ってたけど、
なぜか恭弥は、もっと上の高校に行けたのに、同じ高校に入ってきた。
意地悪の度合いは減ってきたけど、基本的には私をバカにしてくるのは変わらなくて。
クラスの男子と喋ってるとよく邪魔をしてくる。だから、仲良くもなれなくて。
彼氏ができないのも、恭弥のせいだと思う。
・・・・・・・・そんな恭弥が昨日、一ヶ月だけの彼氏になるとは、思いもしなかった。
私は重い頭を抱えて、はあ、とため息をついた。
どんな顔して学校いけばいいんだろう。
まさか、付き合うことになるとは思わなかった。
しかも、嫌いな幼馴染と。
今日からテスト勉強期間で、部活は休みになる。だから、サッカー部もやってない。
それに、ヤマセンの言いつけで、私は恭弥とテスト勉強することになっているのだ。
・・・・・今日、学校休みたいなぁ。
と、ふわふわの布団の上でゴロゴロしていた。
とたんに、ピロン、とLINEが入る。
『今日、放課後テスト勉強しような』
恭弥からだった。
ーーーーーーーーテスト勉強、する気満々じゃん・・・・・・。
色んな意味で嫌だ。勉強もやだし、恭弥と付き合うこともやだし、恭弥に教わるのもいやだし。。。。
はぁ、とため息をついて、しぶしぶ布団から起き上がった。
とりあえず、顔洗わないと。
◇◇◇
「おはよう、杏奈」
ピンポン、とインターフォンが鳴って、扉を開けると恭弥がいた。
私はあんぐりと口を開けた。
「・・・・・なんでいんの?」
「彼女を迎えにきたらいけない?」
恭弥は、当然だろ、とばかりにドヤ顔で返してくる。
私はまだ着替えてもいない。顔を洗って朝ごはんを食べていたところだったのだ。
ヘロヘロのパジャマが少し恥ずかしい。
「・・・・・準備するから、待ってて」
迎えにくるなら、そう連絡してくれればいいのに。
私は急いで扉を閉めて、階段を駆け上る。
・・・・・・恭弥と一緒に学校に行くのは、何年ぶりだろう。
◇◇◇
「お前ほんっとにだせえパジャマ着てんのな」
登校中、恭弥はからかうように言ってきた。駅で電車を待っていたところだった。
私は少しイラっとする。
だって、恭弥が来るってわかってたら扉なんか開けなかったし。
せめて着替えてから扉を開けるつもりだったのに。
「いいでしょ。寝る時くらい」
ぷい、と顔を背けて、軽く無視をする。
意地悪なところは惚れ薬を飲んだって変わらないみたいだ。
すると、恭弥はくすくすと笑って私の頭をぽん、と撫でた。
「可愛いからいいけど。他のやつに見せんなよ」
その顔は、なんか、仕方ないなぁって言いたそうな顔だった。
そして、いわゆる、彼女に向ける顔だった。
私はとたんに恥ずかしくなる。
・・・・・そうだ、私たち、付き合ってるんだよね。
電車が来て、そのまま乗って、揺られて。
高校の最寄駅で降りた。
会話はポツポツと続いた。
授業の話、部活の話、テストの話。
どんなふうに喋ってたか、たまにわからなくなる。
恭弥が、愛おしそうに私を見つめる時は、特に。
「今日の放課後なんだけどさ」
恭弥が嬉しそうに話しかけたところ、後ろから声がした。
「ーーーーーーーあれ、珍しいじゃん」
振り返ると、同じクラスだけどあんまり喋らない人がいた。
サッカー部で、恭弥と仲が良かったような?気がする。
確か名前は、森崎くん。下の名前は、なんだっけ。
「恭弥が女子と学校来るとか」
「まぁ、」
恭弥はちらり、と私を見た。
ーーーーーーーあ、これは、まずいことを喋りそうだ。
私は直感で感じた。
私はとっさに大きな声で恭弥の声を遮った。
「家! 近所だから! そ、それだけ」
勘違いしないでよね、なんて頭の中で叫びながら、森崎くんを見る。
付き合ってるとか勘違いされたら困る(今は勘違いじゃないけど・・・・)。
一ヶ月しかない関係なのだ。誰にもバレないようにしないと、別れた後に気まずくなってしまう。
「・・・・・・へえ」
森崎くんは、ニヤッと笑って私と恭弥を見た。
恭弥は少し眉を寄せて、イラッとした顔で森崎くんを睨む。
「ふーん、そっか。じゃ、俺、先行くわ」
森崎くんは、そのまま先を歩いて行った。
恭弥と私は少し立ち止まった。
どことなく気まずい沈黙が漂っていた。
恭弥からはピリッとした空気がする。
「・・・・・彼女になったじゃん、昨日」
少し口を尖らせて、恭弥はぽつりと呟いた。
ちょっと拗ねているみたいだ。
「・・・・・一ヶ月だって、言ったでしょ。だったら、あんまり誰にも知られない方が、いいじゃん」
私は少し心臓がズキっとした。
恭弥を傷つけている、というのを改めて感じた。
私は小さく一歩ずつ足を進めて、恭弥を置いて学校への道を歩き出した。
「その一ヶ月ってさ、延長もできるの」
恭弥は後ろから声を投げかける。
私はとっさに振り返った。
恭弥の声が、すごい、切羽詰まってたみたいに必死だったから。
「・・・・・・一ヶ月後も、付き合いたいって思ってたら、いいよ」
ーーーーーーーそんなこと、ないだろうけど
と、続けそうになって、口をつぐんだ。
私は、今の恭弥の気持ちが、惚れ薬のせいだって、知ってる。
今、恭弥が私に縋るようにしていたって、薬のせいなんだって、こと、わかってる。
だから、全身で私を好きだって言ってくる恭弥に、ほだされちゃいけないんだ。
これは、私の心を守るためでもあるし。
勘違いしちゃ、いけないんだ。
恭弥はじっと私を見つめて、強い口調で話しかけた。
「わかった、杏奈。じゃあ」
ーーーーーこの一ヶ月、俺がお前のことすごい好きだって、伝えるから
ーーーーーーーーー覚悟しとけよ
と、言って、恭弥は私の手をつかんだ。
思いっきり引っ張られて、足がもつれそうになる。
わっ、と声に出すも恭弥は止まってくれない。
つかまれた手がじんわり熱くて、少しだけドキドキした。