YUZU
お兄ちゃん
今回に限ってはお兄ちゃんを頼りたくない。
まあ、頼りたくても頼れないか。
お兄ちゃんが今住んでるのは都内のマンション。
春野家と秋山家以上にたどり着ける気がしない。
スマホが無ければ、お兄ちゃんと連絡の取りようもない。
電話番号もマンションの住所も全部スマホ任せで覚えてないもん。
仮に電話番号覚えてても公衆電話のかけ方とか、よくわかんない。
それにお兄ちゃんも知らない番号は絶対出ないだろうし。
結局、夏目のおじいちゃんおばあちゃん家が、スマホを持たない15歳の秋山柚葉にできる精一杯の家出先だった。
(子供すぎる……)
こんな時、大人なら、スマホがなくても、いろいろなんとかするんだろうな、と思う。
自分がどれほど狭い世界で保護者に守られて生きているのか、身に染みる。
私は早く自立したいのに。
一刻も早く大人になりたいのに。
一秒だって時間を無駄にしたくないのに。
心が焦るばかりで、行動が付いていかないのがもどかしい。
『どうして浴衣を裁縫遊びなんかに使ったの!』
(遊びじゃない)
ピーコートの上から内側のトップスを撫でて、またため息。
この浴衣リメイクは、私の決意。真剣、本気、大真面目。
必要なものはちゃんと自分のお金で買ったし、いろいろ調べて本気で真剣に取り組んだ。
でも、お母さんの目には裁縫遊びに見えたんだ。
「ああ、もう~~~」
銀色の窓枠に肘をついて、両手で顔をぶにゅーと押し上げる。
肘を伝って、ゴォーーーーーーと、怪獣の吠え声みたいなトンネルの走行音が全身に響いた。
耳がゴワゴワする。
時々、ガタタン、と、お尻から突きあがるように座席も揺れる。でも音や振動が大きいわりに、新幹線程スピードは出ていなかった。
小さい頃、お兄ちゃんと一緒にこの列車に乗った時は、とんでもなく速い乗り物だと興奮したのに。
すごい!速い!と、叫んだ記憶があるのにな。
今や歴史を感じるレトロな列車だった。来年、新幹線の線路が開通したら、この特急列車は廃線になるらしい。
「今のうちに、たくさん乗ってあげてください」と、窓口で駅員さんが寂しそうに言ってたっけ。
あの駅員さん、いい人だったな。優しそうで……
ふわぁ、とあくびが出た。眠い。
このトップスを完成させるため、冬休みに入ってから塾の冬期講習に通いつつ、家族(ほぼお母さんだけど)にバレないようにこっそり制作を続けてきた。
でも、まだ半分も完成しないうちに冬休みが終わりに近づいちゃって、ここ数日は受験勉強するフリをしながら、夜中や早朝も自分の部屋で細かいところを手縫いで作業して寝不足が続いている。
シューーーーー、ゴォーーーーと、なんとなく特急列車っぽいスピード音と、後ろに引っ張られる重力的な感覚が、柚葉の瞼を重たくしていく。
『柚葉は寝てな。着いたら兄ちゃんが起こしてやるから』
頭の中でお兄ちゃんの声がした。
(お兄ちゃん……)
柚葉には12歳年上のお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは柚葉をいつも守ってくれる。
物心ついた時から、お兄ちゃんが大好きだった。
優しくて、かっこよくて……
だけど……だから……。
(お兄ちゃん、私ね……あたしはね……)
とろんと、まどろみに掬い取られて、柚葉はすぅーっと眠りについたのだった。
まあ、頼りたくても頼れないか。
お兄ちゃんが今住んでるのは都内のマンション。
春野家と秋山家以上にたどり着ける気がしない。
スマホが無ければ、お兄ちゃんと連絡の取りようもない。
電話番号もマンションの住所も全部スマホ任せで覚えてないもん。
仮に電話番号覚えてても公衆電話のかけ方とか、よくわかんない。
それにお兄ちゃんも知らない番号は絶対出ないだろうし。
結局、夏目のおじいちゃんおばあちゃん家が、スマホを持たない15歳の秋山柚葉にできる精一杯の家出先だった。
(子供すぎる……)
こんな時、大人なら、スマホがなくても、いろいろなんとかするんだろうな、と思う。
自分がどれほど狭い世界で保護者に守られて生きているのか、身に染みる。
私は早く自立したいのに。
一刻も早く大人になりたいのに。
一秒だって時間を無駄にしたくないのに。
心が焦るばかりで、行動が付いていかないのがもどかしい。
『どうして浴衣を裁縫遊びなんかに使ったの!』
(遊びじゃない)
ピーコートの上から内側のトップスを撫でて、またため息。
この浴衣リメイクは、私の決意。真剣、本気、大真面目。
必要なものはちゃんと自分のお金で買ったし、いろいろ調べて本気で真剣に取り組んだ。
でも、お母さんの目には裁縫遊びに見えたんだ。
「ああ、もう~~~」
銀色の窓枠に肘をついて、両手で顔をぶにゅーと押し上げる。
肘を伝って、ゴォーーーーーーと、怪獣の吠え声みたいなトンネルの走行音が全身に響いた。
耳がゴワゴワする。
時々、ガタタン、と、お尻から突きあがるように座席も揺れる。でも音や振動が大きいわりに、新幹線程スピードは出ていなかった。
小さい頃、お兄ちゃんと一緒にこの列車に乗った時は、とんでもなく速い乗り物だと興奮したのに。
すごい!速い!と、叫んだ記憶があるのにな。
今や歴史を感じるレトロな列車だった。来年、新幹線の線路が開通したら、この特急列車は廃線になるらしい。
「今のうちに、たくさん乗ってあげてください」と、窓口で駅員さんが寂しそうに言ってたっけ。
あの駅員さん、いい人だったな。優しそうで……
ふわぁ、とあくびが出た。眠い。
このトップスを完成させるため、冬休みに入ってから塾の冬期講習に通いつつ、家族(ほぼお母さんだけど)にバレないようにこっそり制作を続けてきた。
でも、まだ半分も完成しないうちに冬休みが終わりに近づいちゃって、ここ数日は受験勉強するフリをしながら、夜中や早朝も自分の部屋で細かいところを手縫いで作業して寝不足が続いている。
シューーーーー、ゴォーーーーと、なんとなく特急列車っぽいスピード音と、後ろに引っ張られる重力的な感覚が、柚葉の瞼を重たくしていく。
『柚葉は寝てな。着いたら兄ちゃんが起こしてやるから』
頭の中でお兄ちゃんの声がした。
(お兄ちゃん……)
柚葉には12歳年上のお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは柚葉をいつも守ってくれる。
物心ついた時から、お兄ちゃんが大好きだった。
優しくて、かっこよくて……
だけど……だから……。
(お兄ちゃん、私ね……あたしはね……)
とろんと、まどろみに掬い取られて、柚葉はすぅーっと眠りについたのだった。