YUZU
最悪な家族作文
『僕の家族』
秋山 柚樹
僕の家族に、もうすぐ赤ちゃんが仲間入りします。
妊娠中の僕のお母さんは、元気な赤ちゃんを産むために現在入院しています。赤ちゃんを産むことは、時には命がけになるほど大変なことです。
僕らはみんな、そうやって生まれてきました。
僕のお父さんは僕の本当のお母さんが亡くなったあと、今のお母さんと再婚しました。
血は繋がっていませんが、お母さんは僕のことを自分の子供として育ててくれています。そのお母さんから生まれてくる赤ちゃんは、僕の大切な妹です。
それを「お前の親は再婚して赤ちゃんができたからエロい」と言う人がいます。
「エロい親の子供はエロいから、触れたら妊娠するぞ」と言う人がいます。
再婚して生まれた赤ちゃんはエロくて、再婚していない赤ちゃんはエロくないのでしょうか?
それはどうしてですか? 僕は、絶対におかしいと思います。
僕は、自分の家族のことを「再婚」とはやし立てる人や、「エロい」と言う人や、それを「冗談」や「ジョーク」にして笑う人たちにとても腹を立てています。
そうやって僕の家族を笑う人たちは、自分の家族をバカにされても笑っていられますか?
僕は、自分の大切な家族をバカにされて、とても頭にきています。
僕の家族を侮辱するな! と、思います。
「僕の家族を侮辱するな! と、思います」
作文を読み上げた林先生がキツくクラス中を見回している。柚樹は真っ赤になって下を向くしかなかった。
(なんだよ、これ)
心臓が爆発寸前に脈打っていた。
(なんなんだよ、これ。こんなこと書いたら……。つーか、なんで先生もみんなの前で読むんだよ。空気読めよ)
腹立たしくて、恥ずかしくて、この世の終わりだと絶望した。
(こんなの、こんなの)
―公開処刑だ。
この後、自分がクラスでどんな扱いを受けるか、簡単に想像できる。オレの人生、ジ、エンド。
「先生が秋山君の作文を読んだ理由はわかりますね」
教室のいろんなところから、女子のわざとらしいすすり泣きが聞こえた。
「チクりやがって」
朔太郎がボソッと言った。もちろん、先生に聞こえないように。
「習い事や予定のある人もいると思います。でも、先生は6年3組全員の問題として、きちんと話し合わなければいけないと思います」
この言葉に、クラス全体がざわついた。
「先生、デート行けなくなったから、あんなに怒ってるんだ」
「しっ、聞こえるよ」
「でもあたし、今日ピアノのレッスンがあるのに」
「オレだって塾だぜ」
ざわざわざわ。
ざわざわざわ。
ちっ、と誰かが舌打ちして、林先生がヒステリックな声をあげる。
「今舌打ちした人は立ちなさい! 文句のある人は手を挙げて顔がわかるように言いなさい!!」
しん、と、教室が静まり返った。
(ムリ)
限界だ。柚樹は、ガタン、と椅子を引いて、みんなと目が合わないように俯きながら立ち上がった。
「秋山君からも、みんなに話す?」
優しそうな声で、先生がまるでとんちんかんなことを聞いてくる。
顔を上げなくても、注目されていることがひしひし伝わる。みんな、迷惑そうに見ているに違いない。でもオレだって、こんなこと望んでない。
「変な作文書いてすみませんでした。アレは全部嘘です。僕がふざけただけです。ごめんなさい。僕、用事があるので帰ります。みんなも帰ってください」
早口で言ってさっさとランドセルを背負う。
「秋山君ちょっと待って。先生は」
柚樹は先生と目を合わせずに「すみませんでした」と謝って、そのまま教室を飛び出したのだった。
秋山 柚樹
僕の家族に、もうすぐ赤ちゃんが仲間入りします。
妊娠中の僕のお母さんは、元気な赤ちゃんを産むために現在入院しています。赤ちゃんを産むことは、時には命がけになるほど大変なことです。
僕らはみんな、そうやって生まれてきました。
僕のお父さんは僕の本当のお母さんが亡くなったあと、今のお母さんと再婚しました。
血は繋がっていませんが、お母さんは僕のことを自分の子供として育ててくれています。そのお母さんから生まれてくる赤ちゃんは、僕の大切な妹です。
それを「お前の親は再婚して赤ちゃんができたからエロい」と言う人がいます。
「エロい親の子供はエロいから、触れたら妊娠するぞ」と言う人がいます。
再婚して生まれた赤ちゃんはエロくて、再婚していない赤ちゃんはエロくないのでしょうか?
それはどうしてですか? 僕は、絶対におかしいと思います。
僕は、自分の家族のことを「再婚」とはやし立てる人や、「エロい」と言う人や、それを「冗談」や「ジョーク」にして笑う人たちにとても腹を立てています。
そうやって僕の家族を笑う人たちは、自分の家族をバカにされても笑っていられますか?
僕は、自分の大切な家族をバカにされて、とても頭にきています。
僕の家族を侮辱するな! と、思います。
「僕の家族を侮辱するな! と、思います」
作文を読み上げた林先生がキツくクラス中を見回している。柚樹は真っ赤になって下を向くしかなかった。
(なんだよ、これ)
心臓が爆発寸前に脈打っていた。
(なんなんだよ、これ。こんなこと書いたら……。つーか、なんで先生もみんなの前で読むんだよ。空気読めよ)
腹立たしくて、恥ずかしくて、この世の終わりだと絶望した。
(こんなの、こんなの)
―公開処刑だ。
この後、自分がクラスでどんな扱いを受けるか、簡単に想像できる。オレの人生、ジ、エンド。
「先生が秋山君の作文を読んだ理由はわかりますね」
教室のいろんなところから、女子のわざとらしいすすり泣きが聞こえた。
「チクりやがって」
朔太郎がボソッと言った。もちろん、先生に聞こえないように。
「習い事や予定のある人もいると思います。でも、先生は6年3組全員の問題として、きちんと話し合わなければいけないと思います」
この言葉に、クラス全体がざわついた。
「先生、デート行けなくなったから、あんなに怒ってるんだ」
「しっ、聞こえるよ」
「でもあたし、今日ピアノのレッスンがあるのに」
「オレだって塾だぜ」
ざわざわざわ。
ざわざわざわ。
ちっ、と誰かが舌打ちして、林先生がヒステリックな声をあげる。
「今舌打ちした人は立ちなさい! 文句のある人は手を挙げて顔がわかるように言いなさい!!」
しん、と、教室が静まり返った。
(ムリ)
限界だ。柚樹は、ガタン、と椅子を引いて、みんなと目が合わないように俯きながら立ち上がった。
「秋山君からも、みんなに話す?」
優しそうな声で、先生がまるでとんちんかんなことを聞いてくる。
顔を上げなくても、注目されていることがひしひし伝わる。みんな、迷惑そうに見ているに違いない。でもオレだって、こんなこと望んでない。
「変な作文書いてすみませんでした。アレは全部嘘です。僕がふざけただけです。ごめんなさい。僕、用事があるので帰ります。みんなも帰ってください」
早口で言ってさっさとランドセルを背負う。
「秋山君ちょっと待って。先生は」
柚樹は先生と目を合わせずに「すみませんでした」と謝って、そのまま教室を飛び出したのだった。