YUZU
全力で死ぬまで生きる
「ほ、ほら、高校生だろ。彼氏の一人や二人いんのかなーって、って、二人いたらマズいか」
ははは、と笑いながら(何言ってんだオレ)と焦る。
「恋人じゃないけど、大好きな子はいるかしら」と柚葉が即答した。
(……ま、そうだよな。女子高生だし)
ちょっと残念な気分になった自分に(いやいやいや)と、慌てて(そーいうんじゃないし)と柚樹は自分の中で否定する。
一人焦りまくる柚樹には気づかず、柚葉は遠くの景色を眺めながらぽつりとつぶやいた。
「すごくすごく大切で、すごくすごく愛してる」
「もしかして、片思い?」
気を取り直した柚樹は身を乗り出す。普段は女子って恋バナ好きだよなとか呆れつつ、なんだかんだ言って、柚樹も恋バナに興味があった。
「両想いよ」
嬉しそうににっこり笑う柚葉は、相手のことを考えているのか、勝手に笑みがこぼれたといった感じだった。
「あ~、そーいうこと」
つまり付き合うのも時間の問題で、一番楽しい時期ってやつ。
「柚葉もなかなかやるじゃん」
このっと、肘でつつく真似をする柚樹を、柚葉が見つめた。
「私は、ずっとその子と一緒にいられるって信じて疑わなかったんだけどね。でも、違った」
「?」
「ある日突然、その子とずっと一緒にはいられないことがわかってしまったの」
柚葉の明るい表情が翳る。
「どういう意味?」
「もうすぐ、離れ離れになってしまうんだな」
「相手が引っ越しちゃうとか?」
「まあ、そんなとこ」
柚葉は曖昧に微笑んで、再び窓の外を見つめた。
空は夕焼けから夜へと色を濃くしていく。さっきまでガチャガチャのフィギュアくらい小さかったアトラクションが、元の大きさに戻りつつある。
「もうすぐ会えなくなるってわかった途端、私、すっごく後悔したの。あの時、あそこに行けばよかった。あの時、もっと話を聞いてあげればよかった。あの時、やっぱりプレゼントすればよかった。また後で、また今度って後回しにしないで、もっともっと、あの子の喜ぶことを全力ですればよかったって」
柚樹を見つめる柚葉の濡れたように大きな瞳が、宝石みたいにキラキラ輝いていた。
「でも、そうやって悔やんでも時間は戻らない。だから決めたの。この先、全力で死ぬまで生きるって」
「死ぬまで、生きる?」
「全力でね」と柚葉が付け足す。
「だから、私は落ち込んでる暇はないのよ。時間がもったいないもの」と、柚葉は爽やかに笑ったのだった。
観覧車が地上へ近づいていく。気が付けば、夜の遊園地。11月の月はなんだか薄くて心細い気がした。
「足元に気をつけて、お降りください」
ガチャンと、扉の鍵が外から開いた瞬間、冬の匂いの風がニットの穴をすり抜けていく。
ぴょんと、柚葉が先に降りて、柚樹に手を差し出す。気恥ずかしいけど、柚樹はその手を掴むことにした。
ただ手を繋いだだけなのに、何故かすごく嬉しそうな柚葉。
(全力で死ぬまで生きる、か)
よくわからないけど、なんかカッコいいなとちょっと思う。
(オレにもできるかな)
「そういうわけで、最後の最後、ギリギリまで楽しむわよ」
柚葉がビシっとある方向を指さして、前言撤回、と、柚樹は青ざめた。
『脳天直撃コースターマックス』が暗闇の中をビュンビュン走っている。
父さんが前に言っていたとおり、アレはまさに悪魔の乗り物だ。
(そういや、前っていつだっけ?)
「ガンガン行こー」
考える暇もなく、柚樹は柚葉に引きずられていったのだった。
ははは、と笑いながら(何言ってんだオレ)と焦る。
「恋人じゃないけど、大好きな子はいるかしら」と柚葉が即答した。
(……ま、そうだよな。女子高生だし)
ちょっと残念な気分になった自分に(いやいやいや)と、慌てて(そーいうんじゃないし)と柚樹は自分の中で否定する。
一人焦りまくる柚樹には気づかず、柚葉は遠くの景色を眺めながらぽつりとつぶやいた。
「すごくすごく大切で、すごくすごく愛してる」
「もしかして、片思い?」
気を取り直した柚樹は身を乗り出す。普段は女子って恋バナ好きだよなとか呆れつつ、なんだかんだ言って、柚樹も恋バナに興味があった。
「両想いよ」
嬉しそうににっこり笑う柚葉は、相手のことを考えているのか、勝手に笑みがこぼれたといった感じだった。
「あ~、そーいうこと」
つまり付き合うのも時間の問題で、一番楽しい時期ってやつ。
「柚葉もなかなかやるじゃん」
このっと、肘でつつく真似をする柚樹を、柚葉が見つめた。
「私は、ずっとその子と一緒にいられるって信じて疑わなかったんだけどね。でも、違った」
「?」
「ある日突然、その子とずっと一緒にはいられないことがわかってしまったの」
柚葉の明るい表情が翳る。
「どういう意味?」
「もうすぐ、離れ離れになってしまうんだな」
「相手が引っ越しちゃうとか?」
「まあ、そんなとこ」
柚葉は曖昧に微笑んで、再び窓の外を見つめた。
空は夕焼けから夜へと色を濃くしていく。さっきまでガチャガチャのフィギュアくらい小さかったアトラクションが、元の大きさに戻りつつある。
「もうすぐ会えなくなるってわかった途端、私、すっごく後悔したの。あの時、あそこに行けばよかった。あの時、もっと話を聞いてあげればよかった。あの時、やっぱりプレゼントすればよかった。また後で、また今度って後回しにしないで、もっともっと、あの子の喜ぶことを全力ですればよかったって」
柚樹を見つめる柚葉の濡れたように大きな瞳が、宝石みたいにキラキラ輝いていた。
「でも、そうやって悔やんでも時間は戻らない。だから決めたの。この先、全力で死ぬまで生きるって」
「死ぬまで、生きる?」
「全力でね」と柚葉が付け足す。
「だから、私は落ち込んでる暇はないのよ。時間がもったいないもの」と、柚葉は爽やかに笑ったのだった。
観覧車が地上へ近づいていく。気が付けば、夜の遊園地。11月の月はなんだか薄くて心細い気がした。
「足元に気をつけて、お降りください」
ガチャンと、扉の鍵が外から開いた瞬間、冬の匂いの風がニットの穴をすり抜けていく。
ぴょんと、柚葉が先に降りて、柚樹に手を差し出す。気恥ずかしいけど、柚樹はその手を掴むことにした。
ただ手を繋いだだけなのに、何故かすごく嬉しそうな柚葉。
(全力で死ぬまで生きる、か)
よくわからないけど、なんかカッコいいなとちょっと思う。
(オレにもできるかな)
「そういうわけで、最後の最後、ギリギリまで楽しむわよ」
柚葉がビシっとある方向を指さして、前言撤回、と、柚樹は青ざめた。
『脳天直撃コースターマックス』が暗闇の中をビュンビュン走っている。
父さんが前に言っていたとおり、アレはまさに悪魔の乗り物だ。
(そういや、前っていつだっけ?)
「ガンガン行こー」
考える暇もなく、柚樹は柚葉に引きずられていったのだった。