YUZU

水曜日 水族館に行くためのコーデ

 カンカンカンカン
 今日も朝から柚葉がフライパンを叩いている。

「うるっせぇなぁ」
 あくびをしながら目をこすったら、指に冷たいものがついて「アレ?」と柚樹は覗き込んだ。

「げっ、なんだこりゃ」
 両目から結構な量の涙が流れている。

「なんでオレ泣いてんだ?」

 ガンガンガンガン
 考える暇も与えないこのやかましさ。

「ぐわぁ」と柚樹は呻いて叫んだ。
「起きたからやめろ~!」

 部屋の電気をつけて、片耳を塞ぎながらドアを開けると、フライパンとお玉を持ってにっこり笑う柚葉が立っていた。

「ほら、時間ないよ。早く着替えて降りてきて」
「んだよ、学校は休んでもいいんだろ」

「何言ってんの? 今日は水族館に行くのよ!」
 柚葉がぱちりとウィンクをした。古っ、ダサッ。

「早く準備してね~」
 エプロン姿でスリッパをつっかけ、パタパタと階段を下りていく柚葉を茫然と見送って(母親か)と思わずつっこむ。

(見た目まあまあなだけに残念だな)
 ま、別にいいけど。

(でも水族館か)と、柚樹の口が勝手にほころんだ。遊園地に続いて、久しぶりの響き。

 去年の冬くらいから親と出かけるのがなんか微妙で、レジャー的なところには出かけていなかったしな。そうこうしているうちに母さんが妊娠して……

 柚樹は頭を振って(何着て行こうかな)と強引に気持ちを切り替えた。
 エアコンの目覚まし暖房をセットしていたおかげで部屋はいい具合に暖かい。
 でも、遮光カーテンの隙間から冷凍庫の中みたいにヒヤッとする冷気が入り込んできている。

(この時期、朝晩は寒いけど、昼間はまあまあ暖かいんだよな)
 昨日の遊園地も昼間は日が当たって結構汗ばんだのに、夕方過ぎから急激に冷え出して、ニットの隙間から入り込む冷たい風に鳥肌が立った。

 もし柚葉が機転を利かせて柚樹のパーカーを持ってきていなければ、今頃、風邪をひいて熱が上がっていたかもしれない。

(う~ん、どうするかな)

 11月のコーデはムズい。クローゼットの洋服をあれこれ取り出して、柚樹はしばし悩んだ。

(とりあえず、脱着しやすいようにティシャツの上にネルシャツを重ね着して、その上からちょっと厚めのアウターを羽織るかな)
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