YUZU
特急列車に揺られて
そんなやりとりがあり、今柚樹と柚葉は、特急列車に揺られている。
銀色の窓枠に肘をついて、柚樹は隣の柚葉をじろりと眺めた。
(なんで、よりによって夏目のばあちゃんちに行かなきゃなんねーんだよ)
ゴォーーーと、トンネルに入った特急列車がくぐもった音を立てている。ガタタン、と、レールの境目に乗り上げた車体の振動で、時折座席が揺れる。
「普通さ、遊園地、水族館ときたら動物園じゃね?」
どうしても諦めきれなくて口を尖らせ抗議すると「動物園は無理」と、即答された。
「なんでだよ?」
「なんでって」
今度は柚葉が柚樹を見て口を尖らせる。
「私だってそんなに大人になれないもの」
「? むしろ動物園って子供が好きなスポットですけど」
「とにかく、行くべきところに行かなきゃ。タイムイズマネーよ」
「意味わかんねーんだけど」
「言ったでしょ、全力で死ぬまで生きるって。じゃ、私寝るね~。おやすみ~」
言い終わるが早いか、柚葉はさっさと大きな目をつぶってしまった。
(全力で死ぬまで生きるのと、夏目のばあちゃんちに何の関係があんだよ)
楽しみにし過ぎたせいで、柚樹の不満はなかなか収まらない。一方の柚葉は、既に小さな寝息を立て始めていた。
「寝るの早っ……」
確かに、動物園に行くと柚葉に言われたわけじゃない。柚樹が勝手にそう思っただけだ。
隣で眠る柚葉を見つめ、(にしても)と、柚樹は首を捻る。
(そんなに大人になれないって、動物園でなんかあったのかな?)
そういえば、柚葉は家出娘だ。両親やきょうだいと揉めた原因が動物園にあるとか?
それとも、彼氏(まだつきあってないけど)との初デートの場所だから、思い出して辛くなるとか?
(……まあ。いろいろ、あるのかもしんないな)
誰だって、悩みの一つや二つは抱えているもんだから。と、柚樹は窓の外を眺めた。
特急列車は相変わらずゴーーーーと、トンネルの中を走っていて、真っ暗な窓にうっすら自分の顔が映っていた。
(つまんねー)
耳の奥がごわごわする。悶々としながら暇を弄んでいた柚樹も、いつしか眠りに落ちていた。
深い寝息を立てる柚樹の隣で、寝ていたはずの柚葉がパチリと目を開いた。
「私だって、柚樹ともっともっとデートしたいのよ」
呟きながら、窓にもたれて眠りこける柚樹の前髪を、柚葉は優しくかき分けた。
思っていたよりも、太くしっかりした髪の感触に、また寂しさが募る。
子猫のように細く少し茶色がかった髪は、もう生えていないのね。
「お金で時間が買えたらいいのにな」
思わずそう嘆いて、いけない、と頭を振る。
気持ちを切り替え、柚樹を見つめて、くすっと笑みがこぼれた。
この子ったら、口を半開きにして寝るのは相変わらずね。
「柚樹は、プライスレス」
ふふっと、柚葉は寂し気に微笑んだのだった。
銀色の窓枠に肘をついて、柚樹は隣の柚葉をじろりと眺めた。
(なんで、よりによって夏目のばあちゃんちに行かなきゃなんねーんだよ)
ゴォーーーと、トンネルに入った特急列車がくぐもった音を立てている。ガタタン、と、レールの境目に乗り上げた車体の振動で、時折座席が揺れる。
「普通さ、遊園地、水族館ときたら動物園じゃね?」
どうしても諦めきれなくて口を尖らせ抗議すると「動物園は無理」と、即答された。
「なんでだよ?」
「なんでって」
今度は柚葉が柚樹を見て口を尖らせる。
「私だってそんなに大人になれないもの」
「? むしろ動物園って子供が好きなスポットですけど」
「とにかく、行くべきところに行かなきゃ。タイムイズマネーよ」
「意味わかんねーんだけど」
「言ったでしょ、全力で死ぬまで生きるって。じゃ、私寝るね~。おやすみ~」
言い終わるが早いか、柚葉はさっさと大きな目をつぶってしまった。
(全力で死ぬまで生きるのと、夏目のばあちゃんちに何の関係があんだよ)
楽しみにし過ぎたせいで、柚樹の不満はなかなか収まらない。一方の柚葉は、既に小さな寝息を立て始めていた。
「寝るの早っ……」
確かに、動物園に行くと柚葉に言われたわけじゃない。柚樹が勝手にそう思っただけだ。
隣で眠る柚葉を見つめ、(にしても)と、柚樹は首を捻る。
(そんなに大人になれないって、動物園でなんかあったのかな?)
そういえば、柚葉は家出娘だ。両親やきょうだいと揉めた原因が動物園にあるとか?
それとも、彼氏(まだつきあってないけど)との初デートの場所だから、思い出して辛くなるとか?
(……まあ。いろいろ、あるのかもしんないな)
誰だって、悩みの一つや二つは抱えているもんだから。と、柚樹は窓の外を眺めた。
特急列車は相変わらずゴーーーーと、トンネルの中を走っていて、真っ暗な窓にうっすら自分の顔が映っていた。
(つまんねー)
耳の奥がごわごわする。悶々としながら暇を弄んでいた柚樹も、いつしか眠りに落ちていた。
深い寝息を立てる柚樹の隣で、寝ていたはずの柚葉がパチリと目を開いた。
「私だって、柚樹ともっともっとデートしたいのよ」
呟きながら、窓にもたれて眠りこける柚樹の前髪を、柚葉は優しくかき分けた。
思っていたよりも、太くしっかりした髪の感触に、また寂しさが募る。
子猫のように細く少し茶色がかった髪は、もう生えていないのね。
「お金で時間が買えたらいいのにな」
思わずそう嘆いて、いけない、と頭を振る。
気持ちを切り替え、柚樹を見つめて、くすっと笑みがこぼれた。
この子ったら、口を半開きにして寝るのは相変わらずね。
「柚樹は、プライスレス」
ふふっと、柚葉は寂し気に微笑んだのだった。