YUZU
初めてのクッキング
(まずは調味料を全部入れる)
とりあえず味噌を入れて、酒も入れて。
「みりんはどのくらい?」
「好みによるけど、まあ、お酒とおんなじくらいかな」
言いながら柚葉は1リットルのみりんの蓋を開け、テキトーにちょろっと入れた。
「砂糖は?」
「これも好みによるけど、まあ、大さじ1杯くらい入れてかき混ぜて、ちろっと舐めて足りなかったら足す」
「……アバウトすぎじゃね?」
「いいの。家庭の味っていうのは、同じメニューなのに毎回微妙に味が違うから飽きないのよ。同じキャベツ丼なのに、この前よりちょっと甘いとか、ショウガが効いてるとか、今日はキノコが違うとか、そういうのが楽しいんじゃない。ファミレスみたいに、いつ食べても完璧に同じ味だったら飽きちゃうわよ」
そう言われてみると、確かにファミレスのメニューって、いつ頼んでも全く同じ味がする。
じゃあ、母さんの料理も微妙に味が違ってるのかな。
う~ん。やっぱ、ただ単に、柚葉が大雑把なだけだな。と、柚樹はこっそり思った。
どうやら料理は、作る人の性格が出やすいようだ。
几帳面な母さんは、きっちりしたお手本みたいな料理を作るし、思いついたら即行動的な柚葉の料理は、大雑把でちょっと風変わりだ。
きっと、二人が同じ料理名のおかず、例えば、肉じゃがとか、カレーとか、を作っても、完成したものは見た目も味も全然違うに違いない。
(でも、今朝のほうれん草のココットは母さんのと似てたな)
母さんも柚葉も、ほうれん草をオレ好みの味にするのが上手い気がする。
「ほら、止まってないで手を動かす!」
米を研ぎながら柚葉が急かすので、「へいへい」と、柚樹もメモを確認しながら調理を続けた。
次は、ニンニクとショウガのチューブ。
にゅるっと計量カップの端につけて菜箸で下に落とす。
レシピ通りに、全ての調味料を計量カップに入れてかき混ぜたら、ドロッとした調味液が完成した。
「はい、ちろっと舐めてみて」
柚葉は、菜箸を使って柚樹の手のひらに調味液を少し乗せた。恐る恐る舐めてみると、あまじょっぱい味噌味がした。
「これ、小学校でたまに出る肉みその味に似てる」
白ご飯にのせると旨いやつ。
「どれ、私も。うん、いい出来ね」
柚葉も菜箸で掬った調味料を手の甲にちょんと乗せ、ちろっと舐めて満足げに笑った。
「次は野菜を切っていくよ。キャベツをざく切りにしまーす」
「ざ、ざく切り?」
「ざく切りっていうのは、その名の通り、こうやってザクザク切っていくのよ」
「しめじは石づきを切って手でほぐすよ」
「ほぐす?」
「こうやって、数本ずつの束に手で裂いていくの。キノコは、包丁で切るより手で裂く方が味が染み込みやすいのよ」
「フライパンにごま油を多めに入れて火をつける」
「多めって?」
「う~ん、私はいつも目分量なんだけど、大さじ2杯くらいかなぁ」
「豚こまを菜箸で炒めるよ。この時、ちょっとだけ塩を振る」
「ちょっとだけって?」
「ひとつまみくらいかな。塩を振るときはできるだけ高いところからパラパラ振ると、全体にまんべんなく塩が回りやすいんですって。この前、『おひるですよー』でやってたわ」
「この前って、何年前の話だよ」
「ん?」
「だって『おひるですよー』って、オレが小2の時に大人の事情で急に終了した番組じゃん。いきなり終わったから、クラスでいろいろ盛り上がったもん」
「ええ?? あの長寿番組が終わったの? ウソでしょ~……じゃなくて……おひるですよーじゃなくて、違う料理番組だったかも。おほほほ」
「……」
「そ、そんなことより、お肉に火が通ったらしめじを入れて炒めてね。ちょっとしめじに焦げ目をつけると香ばしくて美味しいわよ」
「……へいへい」
「しめじがしんなりしてきたら、キャベツ全部投入! 2~3分中火で炒めて。うん、上手上手!」
「ここで調味液をいれてキャベツがしんなりするまで炒めるよ。美味しそうになってきたじゃない」
「半分に切った柚子の果汁をフライパンの上で絞って全体に混ぜ合わせるよ。残った皮はみじん切りにして、これも入れて混ぜちゃう。そうそう。いい感じ」
「調味液が入っていた計量カップに卵を割り入れて、残ってる調味液ごとかき混ぜて溶き卵を作ってね。そうそう。その溶き卵を具全体に回しかけたら、菜箸でざっくりかき混ぜて具に絡めて。あら、上手じゃない」
「卵が半熟になったら火を止めて、最後に……そう、よくわかったわね。かつお節をどばっと振りかける。量もいい感じ! やるじゃない」
「はい! 柚子のキャベツ丼完成~」
パチパチパチ~と、柚葉が手を叩いた。
柚樹は、ふうと、額の汗をぬぐう。いろいろわかんないことだらけで焦ったけど……
「オレでもできた」
柚樹はフライパンの中の炒め物を覗き込んで感動する。
見た目、ちゃんとおかずっぽい! これを、オレが作ったんだ……
「簡単でしょ?」と、柚葉が隣で微笑んでいる。
意外に料理って面白いかも。と柚樹は頬を紅潮させた。
ちょっと不思議だったのは、途中から、この料理どっかで見たことある気がしたことだ。
卵を絡めた後、かつお節をかけることや、その分量なんかも、初めて作るのになんとなく知っている気がした。誰かが作っているのを見たことがあるような。
デジャヴ、みたいな?
と、大量のキャベツ丼を見て、柚樹はあれっと思う。
「これ、二人で食べるには量多すぎじゃね?」
とりあえず味噌を入れて、酒も入れて。
「みりんはどのくらい?」
「好みによるけど、まあ、お酒とおんなじくらいかな」
言いながら柚葉は1リットルのみりんの蓋を開け、テキトーにちょろっと入れた。
「砂糖は?」
「これも好みによるけど、まあ、大さじ1杯くらい入れてかき混ぜて、ちろっと舐めて足りなかったら足す」
「……アバウトすぎじゃね?」
「いいの。家庭の味っていうのは、同じメニューなのに毎回微妙に味が違うから飽きないのよ。同じキャベツ丼なのに、この前よりちょっと甘いとか、ショウガが効いてるとか、今日はキノコが違うとか、そういうのが楽しいんじゃない。ファミレスみたいに、いつ食べても完璧に同じ味だったら飽きちゃうわよ」
そう言われてみると、確かにファミレスのメニューって、いつ頼んでも全く同じ味がする。
じゃあ、母さんの料理も微妙に味が違ってるのかな。
う~ん。やっぱ、ただ単に、柚葉が大雑把なだけだな。と、柚樹はこっそり思った。
どうやら料理は、作る人の性格が出やすいようだ。
几帳面な母さんは、きっちりしたお手本みたいな料理を作るし、思いついたら即行動的な柚葉の料理は、大雑把でちょっと風変わりだ。
きっと、二人が同じ料理名のおかず、例えば、肉じゃがとか、カレーとか、を作っても、完成したものは見た目も味も全然違うに違いない。
(でも、今朝のほうれん草のココットは母さんのと似てたな)
母さんも柚葉も、ほうれん草をオレ好みの味にするのが上手い気がする。
「ほら、止まってないで手を動かす!」
米を研ぎながら柚葉が急かすので、「へいへい」と、柚樹もメモを確認しながら調理を続けた。
次は、ニンニクとショウガのチューブ。
にゅるっと計量カップの端につけて菜箸で下に落とす。
レシピ通りに、全ての調味料を計量カップに入れてかき混ぜたら、ドロッとした調味液が完成した。
「はい、ちろっと舐めてみて」
柚葉は、菜箸を使って柚樹の手のひらに調味液を少し乗せた。恐る恐る舐めてみると、あまじょっぱい味噌味がした。
「これ、小学校でたまに出る肉みその味に似てる」
白ご飯にのせると旨いやつ。
「どれ、私も。うん、いい出来ね」
柚葉も菜箸で掬った調味料を手の甲にちょんと乗せ、ちろっと舐めて満足げに笑った。
「次は野菜を切っていくよ。キャベツをざく切りにしまーす」
「ざ、ざく切り?」
「ざく切りっていうのは、その名の通り、こうやってザクザク切っていくのよ」
「しめじは石づきを切って手でほぐすよ」
「ほぐす?」
「こうやって、数本ずつの束に手で裂いていくの。キノコは、包丁で切るより手で裂く方が味が染み込みやすいのよ」
「フライパンにごま油を多めに入れて火をつける」
「多めって?」
「う~ん、私はいつも目分量なんだけど、大さじ2杯くらいかなぁ」
「豚こまを菜箸で炒めるよ。この時、ちょっとだけ塩を振る」
「ちょっとだけって?」
「ひとつまみくらいかな。塩を振るときはできるだけ高いところからパラパラ振ると、全体にまんべんなく塩が回りやすいんですって。この前、『おひるですよー』でやってたわ」
「この前って、何年前の話だよ」
「ん?」
「だって『おひるですよー』って、オレが小2の時に大人の事情で急に終了した番組じゃん。いきなり終わったから、クラスでいろいろ盛り上がったもん」
「ええ?? あの長寿番組が終わったの? ウソでしょ~……じゃなくて……おひるですよーじゃなくて、違う料理番組だったかも。おほほほ」
「……」
「そ、そんなことより、お肉に火が通ったらしめじを入れて炒めてね。ちょっとしめじに焦げ目をつけると香ばしくて美味しいわよ」
「……へいへい」
「しめじがしんなりしてきたら、キャベツ全部投入! 2~3分中火で炒めて。うん、上手上手!」
「ここで調味液をいれてキャベツがしんなりするまで炒めるよ。美味しそうになってきたじゃない」
「半分に切った柚子の果汁をフライパンの上で絞って全体に混ぜ合わせるよ。残った皮はみじん切りにして、これも入れて混ぜちゃう。そうそう。いい感じ」
「調味液が入っていた計量カップに卵を割り入れて、残ってる調味液ごとかき混ぜて溶き卵を作ってね。そうそう。その溶き卵を具全体に回しかけたら、菜箸でざっくりかき混ぜて具に絡めて。あら、上手じゃない」
「卵が半熟になったら火を止めて、最後に……そう、よくわかったわね。かつお節をどばっと振りかける。量もいい感じ! やるじゃない」
「はい! 柚子のキャベツ丼完成~」
パチパチパチ~と、柚葉が手を叩いた。
柚樹は、ふうと、額の汗をぬぐう。いろいろわかんないことだらけで焦ったけど……
「オレでもできた」
柚樹はフライパンの中の炒め物を覗き込んで感動する。
見た目、ちゃんとおかずっぽい! これを、オレが作ったんだ……
「簡単でしょ?」と、柚葉が隣で微笑んでいる。
意外に料理って面白いかも。と柚樹は頬を紅潮させた。
ちょっと不思議だったのは、途中から、この料理どっかで見たことある気がしたことだ。
卵を絡めた後、かつお節をかけることや、その分量なんかも、初めて作るのになんとなく知っている気がした。誰かが作っているのを見たことがあるような。
デジャヴ、みたいな?
と、大量のキャベツ丼を見て、柚樹はあれっと思う。
「これ、二人で食べるには量多すぎじゃね?」