YUZU
動物園の真実
誕生日に行くはずだった動物園のこと。
「柚樹は動物園で何が見たい?」とママに聞かれて、動物園でやりたいことを絵にして持っていこうと思いついたこと。
パパとママと三人でキリンを眺める絵、ライオンを見たパパがびっくりしている絵。
三人で猿山を眺めながらソフトクリームを食べているところを一生懸命描いたこと。
動物園は遠くてなかなか行けないから、家族で一緒にやりたいこと、見たいところを一つも取りこぼさないように、忘れないようにと、一生懸命絵を描いたこと。
絵が完成して、それを大切に抱えてウキウキとレンタカーに乗り込んだこと。
でも……動物園に行く車の中で、ママは急に具合が悪くなって、そのまま入院してしまったこと。
それから何日も戻ってこなかったこと。
(……あのとき)
柚樹は保育園で友達の工作をトイレに流してしまった時のことを思い出していた。
あの時、友達が動物園の工作を完成させてしまった瞬間、柚樹は恐怖におののいた。
ダメだと、反射的に怖くなったのだ。
理由はわからなかったけど、怖くて怖くてしかたなかった。
絶対に完成したらダメなのに、どうしようどうしよう、と、それだけが頭を支配していた。
それで、こんなの無くなってしまえっ、と、急いでトイレに投げ込んだのだ。
そのあと、友達が泣いて、母さんに酷く怒られて……
どうしてオレは、よりによって工作が完成した日にトイレに捨てたのだろう。と、ずっとわからなかった。
他の意地悪は、お母さんやママという言葉に反応してやったことだとわかった。
でもその工作の時の気持ちだけは、何故か覚えていなかった。
たとえば、もっと前の段階で、作っている途中で壊していたら、もちろんそれだって酷いことには変わりないけれど、それでも、完成した直後に捨てるよりはマシだったはずだ。
それなら、母さんにあんなに怒られることもなかったかもしれない。
そしたら、母さんの腕に傷痕を残さずにすんだのに。
母さんの腕の傷を見るたびに、そう思わずにはいられなかった。
友達が一番傷つく方法で、大切なものを捨てた自分の気持ちがわからなかった。
幼かったとはいえ、酷すぎる。
思い出すたびに、過去の自分にモヤモヤした。
それもあって、酔っぱらった父さんが保育園時代のことを蒸し返すたび、最低な自分を思い出してイライラしたのだ。
小さかったし母親を亡くしていたし仕方がなかったと思うことにして、そうやってこれまで柚樹は、過去の自分を今の自分とを切り離して納得させてきた。
昔の自分は、本当の自分じゃない。
ママが死んだせいで、一時的に別人になったんだ。
みんなそう言っていたし、そう思うことにした。
(あの子を傷つけたくてやったことじゃなかったんだ)
もちろん、だからといって許されることじゃない。
怒られて当然のことをした。
あの後、その子に謝って一応は許してもらったけど。
だけどオレは、本当の意味で謝罪していない。
あの子だって、本当は許していない。
形だけの謝罪と形だけの仲直りだったと、わかっていたから、ずっと心に引っかかっていたのだ。
(朔太郎に、オレと同じ保育園出身の友達を紹介してもらおうかな)
母さんに聞けば、その子の情報がすぐにわかるかもしれないけど、できるだけ自力でその子を探し出して、今度はしっかりと謝りたいと思った。
もしかしたら友達の方は覚えていないかもしれないけれど、それならそれでもかまわない。
(あの頃のオレも、オレだから)
ちゃんとあの時の気持ちを話して、ちゃんと謝りたいと思った。
過去の自分を受け入れるために。
「柚樹は動物園で何が見たい?」とママに聞かれて、動物園でやりたいことを絵にして持っていこうと思いついたこと。
パパとママと三人でキリンを眺める絵、ライオンを見たパパがびっくりしている絵。
三人で猿山を眺めながらソフトクリームを食べているところを一生懸命描いたこと。
動物園は遠くてなかなか行けないから、家族で一緒にやりたいこと、見たいところを一つも取りこぼさないように、忘れないようにと、一生懸命絵を描いたこと。
絵が完成して、それを大切に抱えてウキウキとレンタカーに乗り込んだこと。
でも……動物園に行く車の中で、ママは急に具合が悪くなって、そのまま入院してしまったこと。
それから何日も戻ってこなかったこと。
(……あのとき)
柚樹は保育園で友達の工作をトイレに流してしまった時のことを思い出していた。
あの時、友達が動物園の工作を完成させてしまった瞬間、柚樹は恐怖におののいた。
ダメだと、反射的に怖くなったのだ。
理由はわからなかったけど、怖くて怖くてしかたなかった。
絶対に完成したらダメなのに、どうしようどうしよう、と、それだけが頭を支配していた。
それで、こんなの無くなってしまえっ、と、急いでトイレに投げ込んだのだ。
そのあと、友達が泣いて、母さんに酷く怒られて……
どうしてオレは、よりによって工作が完成した日にトイレに捨てたのだろう。と、ずっとわからなかった。
他の意地悪は、お母さんやママという言葉に反応してやったことだとわかった。
でもその工作の時の気持ちだけは、何故か覚えていなかった。
たとえば、もっと前の段階で、作っている途中で壊していたら、もちろんそれだって酷いことには変わりないけれど、それでも、完成した直後に捨てるよりはマシだったはずだ。
それなら、母さんにあんなに怒られることもなかったかもしれない。
そしたら、母さんの腕に傷痕を残さずにすんだのに。
母さんの腕の傷を見るたびに、そう思わずにはいられなかった。
友達が一番傷つく方法で、大切なものを捨てた自分の気持ちがわからなかった。
幼かったとはいえ、酷すぎる。
思い出すたびに、過去の自分にモヤモヤした。
それもあって、酔っぱらった父さんが保育園時代のことを蒸し返すたび、最低な自分を思い出してイライラしたのだ。
小さかったし母親を亡くしていたし仕方がなかったと思うことにして、そうやってこれまで柚樹は、過去の自分を今の自分とを切り離して納得させてきた。
昔の自分は、本当の自分じゃない。
ママが死んだせいで、一時的に別人になったんだ。
みんなそう言っていたし、そう思うことにした。
(あの子を傷つけたくてやったことじゃなかったんだ)
もちろん、だからといって許されることじゃない。
怒られて当然のことをした。
あの後、その子に謝って一応は許してもらったけど。
だけどオレは、本当の意味で謝罪していない。
あの子だって、本当は許していない。
形だけの謝罪と形だけの仲直りだったと、わかっていたから、ずっと心に引っかかっていたのだ。
(朔太郎に、オレと同じ保育園出身の友達を紹介してもらおうかな)
母さんに聞けば、その子の情報がすぐにわかるかもしれないけど、できるだけ自力でその子を探し出して、今度はしっかりと謝りたいと思った。
もしかしたら友達の方は覚えていないかもしれないけれど、それならそれでもかまわない。
(あの頃のオレも、オレだから)
ちゃんとあの時の気持ちを話して、ちゃんと謝りたいと思った。
過去の自分を受け入れるために。