淡雪の恋 心に弾けた思いを君へ
土曜日、まだまだ本調子じゃないのか、母ちゃんは家に居た。 俺も部活が休みになったから家に居る。
「珍しいな。 揃いも揃って家に居るなんて、、、。」 「だ、よ、ね。」
「何だよ?」 「何でもございませんわ。 お兄様。」
「いちいち、棘を刺すやつだなあ。」 「あらあら、そんなことはございませんわよ。」
「それより何で休みになったの?」 「病人が出たんだって。」
「お兄ちゃんが?」 「何で俺なんだよ?」
「お母さん病だもんねえ お兄ちゃん。」 「それは関係ねえよ。」
「まあまあ、お気を付け遊ばせね。」 あゆみはニヤニヤしながら部屋へ戻って行った。
母ちゃんはお茶を飲みながら俺たちの話を聞いていた。 「大変ねえ。」
「ほんとだよ。 あいつもいろいろ考えてるんだとは思うけど、、、。」 そこへ二階からあゆみが下りてきた。
「今からさあ、美幸ちゃんの家に行ってくる。」 「帰りは?」
「そうだなあ。 6時くらいには帰るかも。」 「行ってらっしゃい。」
「変なことしないのよ。 お兄様。」 「あったり前っしょ。」
あゆみが玄関を出ていくと母ちゃんは渋い顔で俺を見た。 「相当だね。」
「そうねえ。 何でああなっちゃったんだろう?」 「それが分かったら苦労しないよ。」
「それもそうだわ。」 二人黙って座っている。
テレビは静かで何となく緊張してしまう。 時々手を握っては顔を見合わせる。
いつだったか、近所の八百屋に二人で買い物に行ったら「やあ、敬子ちゃん 若い彼氏だなあ。」って親父さんに笑われちまって、、、。
でもさ、こうしていると何にもしないのが変な風に思えてくるんだ。 邪魔するやつも居ないんだし、、、。
「母ちゃんさあ、恋したこと有るの?」 「なあに? いきなり。」
「だって、じいちゃん以外の話は聞いたことが無いからさ。」 「今してるわよ。」
「今?」 「うん。」
それを聞いた俺は心臓が高鳴っていることに気付いた。 俺だったのか。
いつもと変わらぬ調子で隣に座っていてくれる母ちゃんなのに、何か特別な物を感じている。 これが愛されるってことなのか?
あの日、脱衣所で抱き着いて以来、俺と母ちゃんはどんどんくっ付いているようには感じていた。 それがいいことなのか、悪いことなのかも分からずに。
「そうか。 それでか、、、。」 「なあに?」
「だからあゆみが「親子で子作りしちゃダメだからねえ。」なんて言ってたんだ。」 「そうなのか。」
母ちゃんは溜息を吐きながら長い髪をかき上げた。
どうも、あの夜に抱かれて以来、あゆみに何かを感じている。 あゆみも女の子だから感は鋭いはず。
確かにね、私と敏夫は親子なの。 それ以上でもそれ以下でもないわ。
でも何処かに特別な感情が有るのも事実なのよね。 敏夫を離したくないって思ってるのも事実なの。
やっちゃいけないことは分かってるの。 でも体が、、、。
でも今はここから先に進んじゃダメね。 私のためにも、敏夫のためにも。
昼近くなってあゆみが帰ってきた。 「ただいま。」
「お、早かったな。」 「え? 早くちゃダメだった?」
「どういう意味だよ?」 「そういう意味よ。」
「お前なあ、、、。」 「またまたお母さんといいことしてたんでしょう? お気を付け遊ばせね。 お兄様。」
俺たちはいつもこうなんだ。 喧嘩したくなくても喧嘩している。
母ちゃんはそんな俺たちを見ながら昼食の準備をしている。 「今日はラーメンにしたわ。」
「なんか久しぶりだね。」 「そうかな?」
「この頃はパンとかだったから。」 「そっか。」
あゆみはラーメンを啜りながら教科書を開いている。 「どっちかにしろよ。」
「そんなこと言ったって、、、。」 「食べる時は食べるの。」
「まあまあ、いいじゃない。 受験生は大変なのよ。」 「お母さん 分かってる。」
「こいつ、、、。」 俺は割り箸であゆみの頭を突いてみた。
ムッと睨み返すあゆみ、、、。 「お母さん取られたから悔しいんでしょう?」
「無い無い。」 「ごまかしてもダメだからね、お兄ちゃん。」
ラーメンを食べ終わるとあゆみはまたバッグを抱えて出て行った。 「今度は何処?」
「図書館だって。」 「忙しいのねえ。」
食器を洗いながら母ちゃんは時々俺を見詰めてくる。 その目にドキッとしてしまう。
抱いたあの日以来、母ちゃんは寂しそうな飢えてるような微妙な目で俺を見詰めてくるんだ。 (見透かされてるのかな?)
そんなことまで考えてしまう。 何かを訴えてくるあの目、、、。
テーブルを挟んで向かい合う。 そっと手を握ってみる。
母ちゃんなのにとんでもなくドキドキしている。 「どうしたの?」
「なんかさあ、そうやって見詰められたらドキドキしちゃって、、、。」 「そうなのか。」
んでまた黙ったまま見詰め合っている。 今にも飛び込みそう。
(抑えるのが大変だぜ。) 「可愛い手だね。」
「ほんと?」 「こんなに可愛いとは思わなかったよ。」
「今まで何回も握ってるのに?」 「今までとは感覚が違うんだ。」
「どんなふうに?」 「どう言ったらいいのか分からないけどさ、、、。」
それはもしかして平常心が恋に代わり始めた瞬間だったのでは?
俺も母ちゃんも芽生えつつある恋心を抑えようと必死だった。
ダメダメ。 親子で恋人になるなんて絶対にダメだよ。
でも、そう思うほどに俺たちの心は燃え上がっていくんだ。 止められないかも?
「ねえ、敏夫君 たまには散歩にでも行かない?」 母ちゃんが口を開いた。
「敏夫君?」 「たまにはこう呼ぶのも有りかと思って、、、。」
「無い無い。」 俺は母ちゃんの顔を見ずに即答した。
「無いか。 そうよね。 そうだよね。」 母ちゃんはどっかまた寂しそうな顔をした。
「寂しがってどうするのさ?」 「そっか。 そうだよね。」
「分かった?」 「そりゃあ分かるよ。 毎日一緒に居るんだからさ。」
「意地悪。」 母ちゃんは悪戯っぽく笑いながら俺の手をつねった。
「何処まで行くの?」 「歩けるだけ歩きたいなって。」
「何だそれ?」 「だって散歩だもん。」
ってなわけで俺たちは玄関に鍵を掛けて歩き始めた。 母ちゃんと二人で散歩するなんて初めてだ。
「なんか緊張するなあ。」 「何で?」
「だって初めてだからさ。 買い物だって一緒に行ったことは無いんだよ。」 「そうだったわねえ。」
もう季節は秋である。 遠くに見える山々もてっぺんから紅葉の気配が忍び寄ってきている。
バス通りに並んでいる店も秋景色に染まりつつあってデートにはちょうどいい雰囲気を醸し出してくれそうだ。
俺たちはその景色の中を何も言わずに歩いている。 話す必要など無いと思ってもいる。
その代わりに互いの胸の中では激しい渦巻きが立ち上って出口を探しているようにすら感じている。
もちろん、それがいけないことだというのは二人とも十分すぎるくらいに分かっている。
分かっているからこそそれを必死に止めようとしているのだ。 それだからか余計に俺たちは口を噤んで歩いている。
しばらく歩いていると母ちゃんが中学生の頃にはやっていた喫茶店が見えてきた。 浦島太郎である。
「ねえねえ、ここに入ろう。」 「喫茶店?」
「そう。 ここのコーヒー美味しいのよ。」 「変わった名前だね。」
「いいじゃない。 ここのマスターね、ジャズが好きなんだって。」 「へえ、そうなんだ。」
母ちゃんは店のドアを開けた。
「珍しいな。 揃いも揃って家に居るなんて、、、。」 「だ、よ、ね。」
「何だよ?」 「何でもございませんわ。 お兄様。」
「いちいち、棘を刺すやつだなあ。」 「あらあら、そんなことはございませんわよ。」
「それより何で休みになったの?」 「病人が出たんだって。」
「お兄ちゃんが?」 「何で俺なんだよ?」
「お母さん病だもんねえ お兄ちゃん。」 「それは関係ねえよ。」
「まあまあ、お気を付け遊ばせね。」 あゆみはニヤニヤしながら部屋へ戻って行った。
母ちゃんはお茶を飲みながら俺たちの話を聞いていた。 「大変ねえ。」
「ほんとだよ。 あいつもいろいろ考えてるんだとは思うけど、、、。」 そこへ二階からあゆみが下りてきた。
「今からさあ、美幸ちゃんの家に行ってくる。」 「帰りは?」
「そうだなあ。 6時くらいには帰るかも。」 「行ってらっしゃい。」
「変なことしないのよ。 お兄様。」 「あったり前っしょ。」
あゆみが玄関を出ていくと母ちゃんは渋い顔で俺を見た。 「相当だね。」
「そうねえ。 何でああなっちゃったんだろう?」 「それが分かったら苦労しないよ。」
「それもそうだわ。」 二人黙って座っている。
テレビは静かで何となく緊張してしまう。 時々手を握っては顔を見合わせる。
いつだったか、近所の八百屋に二人で買い物に行ったら「やあ、敬子ちゃん 若い彼氏だなあ。」って親父さんに笑われちまって、、、。
でもさ、こうしていると何にもしないのが変な風に思えてくるんだ。 邪魔するやつも居ないんだし、、、。
「母ちゃんさあ、恋したこと有るの?」 「なあに? いきなり。」
「だって、じいちゃん以外の話は聞いたことが無いからさ。」 「今してるわよ。」
「今?」 「うん。」
それを聞いた俺は心臓が高鳴っていることに気付いた。 俺だったのか。
いつもと変わらぬ調子で隣に座っていてくれる母ちゃんなのに、何か特別な物を感じている。 これが愛されるってことなのか?
あの日、脱衣所で抱き着いて以来、俺と母ちゃんはどんどんくっ付いているようには感じていた。 それがいいことなのか、悪いことなのかも分からずに。
「そうか。 それでか、、、。」 「なあに?」
「だからあゆみが「親子で子作りしちゃダメだからねえ。」なんて言ってたんだ。」 「そうなのか。」
母ちゃんは溜息を吐きながら長い髪をかき上げた。
どうも、あの夜に抱かれて以来、あゆみに何かを感じている。 あゆみも女の子だから感は鋭いはず。
確かにね、私と敏夫は親子なの。 それ以上でもそれ以下でもないわ。
でも何処かに特別な感情が有るのも事実なのよね。 敏夫を離したくないって思ってるのも事実なの。
やっちゃいけないことは分かってるの。 でも体が、、、。
でも今はここから先に進んじゃダメね。 私のためにも、敏夫のためにも。
昼近くなってあゆみが帰ってきた。 「ただいま。」
「お、早かったな。」 「え? 早くちゃダメだった?」
「どういう意味だよ?」 「そういう意味よ。」
「お前なあ、、、。」 「またまたお母さんといいことしてたんでしょう? お気を付け遊ばせね。 お兄様。」
俺たちはいつもこうなんだ。 喧嘩したくなくても喧嘩している。
母ちゃんはそんな俺たちを見ながら昼食の準備をしている。 「今日はラーメンにしたわ。」
「なんか久しぶりだね。」 「そうかな?」
「この頃はパンとかだったから。」 「そっか。」
あゆみはラーメンを啜りながら教科書を開いている。 「どっちかにしろよ。」
「そんなこと言ったって、、、。」 「食べる時は食べるの。」
「まあまあ、いいじゃない。 受験生は大変なのよ。」 「お母さん 分かってる。」
「こいつ、、、。」 俺は割り箸であゆみの頭を突いてみた。
ムッと睨み返すあゆみ、、、。 「お母さん取られたから悔しいんでしょう?」
「無い無い。」 「ごまかしてもダメだからね、お兄ちゃん。」
ラーメンを食べ終わるとあゆみはまたバッグを抱えて出て行った。 「今度は何処?」
「図書館だって。」 「忙しいのねえ。」
食器を洗いながら母ちゃんは時々俺を見詰めてくる。 その目にドキッとしてしまう。
抱いたあの日以来、母ちゃんは寂しそうな飢えてるような微妙な目で俺を見詰めてくるんだ。 (見透かされてるのかな?)
そんなことまで考えてしまう。 何かを訴えてくるあの目、、、。
テーブルを挟んで向かい合う。 そっと手を握ってみる。
母ちゃんなのにとんでもなくドキドキしている。 「どうしたの?」
「なんかさあ、そうやって見詰められたらドキドキしちゃって、、、。」 「そうなのか。」
んでまた黙ったまま見詰め合っている。 今にも飛び込みそう。
(抑えるのが大変だぜ。) 「可愛い手だね。」
「ほんと?」 「こんなに可愛いとは思わなかったよ。」
「今まで何回も握ってるのに?」 「今までとは感覚が違うんだ。」
「どんなふうに?」 「どう言ったらいいのか分からないけどさ、、、。」
それはもしかして平常心が恋に代わり始めた瞬間だったのでは?
俺も母ちゃんも芽生えつつある恋心を抑えようと必死だった。
ダメダメ。 親子で恋人になるなんて絶対にダメだよ。
でも、そう思うほどに俺たちの心は燃え上がっていくんだ。 止められないかも?
「ねえ、敏夫君 たまには散歩にでも行かない?」 母ちゃんが口を開いた。
「敏夫君?」 「たまにはこう呼ぶのも有りかと思って、、、。」
「無い無い。」 俺は母ちゃんの顔を見ずに即答した。
「無いか。 そうよね。 そうだよね。」 母ちゃんはどっかまた寂しそうな顔をした。
「寂しがってどうするのさ?」 「そっか。 そうだよね。」
「分かった?」 「そりゃあ分かるよ。 毎日一緒に居るんだからさ。」
「意地悪。」 母ちゃんは悪戯っぽく笑いながら俺の手をつねった。
「何処まで行くの?」 「歩けるだけ歩きたいなって。」
「何だそれ?」 「だって散歩だもん。」
ってなわけで俺たちは玄関に鍵を掛けて歩き始めた。 母ちゃんと二人で散歩するなんて初めてだ。
「なんか緊張するなあ。」 「何で?」
「だって初めてだからさ。 買い物だって一緒に行ったことは無いんだよ。」 「そうだったわねえ。」
もう季節は秋である。 遠くに見える山々もてっぺんから紅葉の気配が忍び寄ってきている。
バス通りに並んでいる店も秋景色に染まりつつあってデートにはちょうどいい雰囲気を醸し出してくれそうだ。
俺たちはその景色の中を何も言わずに歩いている。 話す必要など無いと思ってもいる。
その代わりに互いの胸の中では激しい渦巻きが立ち上って出口を探しているようにすら感じている。
もちろん、それがいけないことだというのは二人とも十分すぎるくらいに分かっている。
分かっているからこそそれを必死に止めようとしているのだ。 それだからか余計に俺たちは口を噤んで歩いている。
しばらく歩いていると母ちゃんが中学生の頃にはやっていた喫茶店が見えてきた。 浦島太郎である。
「ねえねえ、ここに入ろう。」 「喫茶店?」
「そう。 ここのコーヒー美味しいのよ。」 「変わった名前だね。」
「いいじゃない。 ここのマスターね、ジャズが好きなんだって。」 「へえ、そうなんだ。」
母ちゃんは店のドアを開けた。