「十年経っても、消えなかった」





「はい、あげる」

 俺より先に動いたのは宝生で、男の子の目線まで屈むと、持っていたアイスを差し出した。

「いいの?」

「いいよ、はい」

 いつも以上の笑顔でアイスを渡すと、兄妹の背中を擦る。

「弟がすみません。お金……」

「気にしないで、大丈夫だから」

 あっちもあるし、と俺の持っているアイスを指差すと、姉が謝らないようにすぐに立ち去る。




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