ずっと、そばにいるよ2

美優と華

集中治療室から出た華は、呼吸器内科病棟に移ってくることになった。

ナースステーションでは、華の部屋について協議し、美優と華を2人部屋に一緒にすることにした。

1人部屋や知らない人との大部屋だと、なかなか人と会話をしないまま1日が過ぎていく。

誰かと会話したり、笑ったりすることは肺を回復させるために良いことで、華の肺炎を良くすること、美優の呼吸機能を上げること、それぞれに利点がある。

ただし2人部屋にして、はしゃぎ過ぎないかだけが心配(笑)


「美優?これから部屋移動するよ。華と一緒にしてあげる」

「え?!本当に?いいの??」

わかりやすいぐらいに美優の顔色が明るくなる(笑)

「ただし、華はまだ万全じゃないから、あんまりはしゃぎ過ぎて疲れさせんなよ。あと、美優もまだまだ体調良くないんだからな、夜更かししないでちゃんと消灯時間守れよ!」

「そんなこと言われなくてもわかってるよ!子供じゃないんだから」

「言わなきゃわかんないから言ってんの。お前は十分子供だろーが(笑)」

拗ねる美優をからかいながら移動の準備をする。

「そうだ、あれからお腹の具合は?そう言えば看護師から何も報告なかったな」

「あれから、うんち出てないよ」

「そっか。出たら教えろよ?食欲は?」

「食欲は普通だよ」

「普通ってなんだよ…全く危機感のないやつだな…」

美優とそんな会話をして、部屋を移動する。

しばらくすると看護師に連れられて車椅子に乗った華が来る。

「華!」

「美優久しぶり。今日からお願いね」

「入院中のことは何でも聞いて!」

「フフ、はい、美優先輩」

美優と華の笑顔を見て、航也も笑顔がこぼれる。

「美優、あんま調子乗んなよ(笑)2人とも大人しくしててな。また来るから」

航也は仕事に戻り、久しぶりに会えた2人は辛くならない程度におしゃべりを楽しんだ。


看護師さんが夕飯を運んでくれた。

「華ちゃん、久しぶりね。今日からよろしくね」

「はい、お願いします」

華は何度も美優のお見舞いに来てるから、看護師さんともすっかり顔見知りになっている。

「2人とも無理しなくていいからね、ゆっくり食べててね」

「はーい」
「はーい」

「1人で食べるより美味しいね」

「そうだね。美優は個室の事が多かったから1人で食べることも多かったね。美優の気持ちが少しわかったよ」

「そうでしょ?寂しいのわかってくれた?」

「アハハハ」

2人の笑い声が聞こえる。


それから3日間経ち、華の酸素は外れ、どんどん回復している。レントゲンの肺炎像も徐々に白さが改善して、あともう一息って所まで来た。
点滴も終了して、炎症を抑える内服薬に切り替えることになった。

美優はというと、相変わらず食欲が湧かないようだ…

「美優、また食欲落ちたんじゃない?」

心配した華が尋ねる。

「うん、食べるとすぐお腹いっぱいになっちゃうの。あと食べると胃がなんかムカムカするっていうか、キリキリするから…」

「航也に言ってあるの?」

「いや、航也毎日忙しいから、これくらい大丈夫だよ」

「そっか。でも無理しちゃだめだよ」

「そんな華こそ、無理しないでね」

ゆっくり昼食を食べて、華は完食して、美優は3分の2くらい食べて終わりにした。

「華の分も片付けてくるよ」

「大丈夫?ありがとう」

「このくらい大丈夫!」

航也がナースステーションでパソコンを打っていると、2つお盆を持った美優が配膳車に返しに来た。

落とさないように真剣な顔してゆっくり歩いてくる。

(全く、一気に2つも持って…落とすなよ)

航也は美優が戻ったのを確認して、配膳車に返された美優のお盆を確認に行く。

(やっぱり食べれないか…栄養の点滴するかな…)

午後の外来前に2人の病室に向かう。

「さぁ、2人ともちょっと診察するよ。まずは華からね」

「はーい」
華が返事をして、ゆっくり胸の音を聞く。

「ん、いいよ。まだキレイな音とは言えないけど、昨日よりは良くなってるよ。次、美優ね」

「ん、いいよ。呼吸は大丈夫だな。美優お腹は?」

「大丈夫だよ」

「食事が取れてないだろ?低栄養になっちゃうから点滴させてね。後で看護師さん来てやってもらうから。じゃあ、何かあったら2人ともナースコールしてね」

航也が出て行ってから美優は大きなため息をつく。

「はぁ〜せっかく点滴が外れたと思ったのに…まただよ…」

「でも美優が栄養取れなくて、また体調崩す方が大変だよ?」

「うん…」

美優は胃の辺りをさすりながら返事をする。

「胃が痛いの?」

「あっ、ううん。何でもない」

その後看護師が来て、美優に点滴を刺す。

「美優ちゃん、お腹痛いとか気持ち悪いとかはない?」

「うん、大丈夫。何ともないよ」

美優の返事を聞き看護師は出て行った。

しばらくして翔太がやってきた。

美優のベッドサイド授業のため。

「あっ、翔太!」

翔太の姿を見て華の表情がほころぶ。

「2人とも大人しくしてるか?」

「うん」
「もちろん」

「華も良くなってきてるみたいでよかったな。美優はご飯あまり食べられてないんだって?」

「うん、だからコレしないとなんだって」

点滴を指さして答える。

「そっか。低栄養になったら困るからね。それにしても何で食欲落ちてるのかね…航也も薬の影響じゃないって言ってたしな。ちょっとでもおかしいと思ったらちゃんと言うんだよ?」

「うん」

「よし。今日は数学をやろうかな、はいコレね」

翔太は美優と華のテーブルに数学のプリントを差し出す。

「え?私も?」

キョトンとした華が尋ねる。

「華もやることなくて暇だろ?航也が2週間くらいの入院って言ってたから、その間に勉強遅れたら困るだろ、受験生なんだから」

「でも入院してる間くらいはさ…それに筆記用具もないし…」

「俺の貸してやるから、つべこべ言ってないで早くやる!」

「も〜スパルタなんだから〜」

2人のやり取りをみてクスクス笑う美優。

「ほら、美優も笑ってないでやりなさい!わからないとこあったら聞いてな」

2人がプリントに取り掛かってる間、翔太は椅子に座って本を読んでいる。

酸素も外れて熱も下がった華は元気になってきているが、美優の顔色は冴えなくて、若干白っぽい。

しばらく様子を見ていた翔太だったが、やっぱり顔色が悪い美優が心配になり、声を掛ける。

「美優?大丈夫?」

「う〜ん…大丈夫」

(その間が気になるな…)

「息は?苦しくない?」

「大丈夫」

「気持ち悪くない?」

「…うん…」

(気持ち悪いのか…?)

華も心配そうに美優を見つめる。

「美優?ちゃんと正直に言わないとだめだよ、どした?」

下を向く美優に翔太が話し掛ける。

美優の目からは涙が溢れている。

「ちょっ、美優急にどした?何かあったか?」
「美優…どうしたの?」

美優の涙に2人が驚いている。

「うぅん、良くわからない…航也も看護師さんもみんな忙しいから…色々言ったらみんなの仕事増やしちゃうし…だから…言えない…」

美優の言葉に翔太はハッとする。

美優は自分のことを言わないんじゃない、言いたくても言えなかったのかもしれない…

言わなきゃダメだと頭ごなしに叱って…間違えだったと気付いた。

「そっか、そっか。周りが忙しくしてると、言いたいことも言えないよね。当たり前だよな。ごめんな…」

「泣いちゃって…ごめんね…ハァ、ハァ」

「苦しくなるからゆっくり深呼吸しよ。もう大丈夫だから」

「美優の気持ちわかるよ。私も集中治療室にいた時、看護師さんが忙しく動き回ってたから…言いたいことあっても言えなかったもん…。でも美優…私達や航也の前では遠慮しないで、美優に頼ってもらいたいよ…」

「うん…グスン、ありがと…グスン」
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