あみちゃんと私
あみちゃんと私
不意に体が震え、目を覚ます。
そうするとね、真っ白で枝みたいに細いあなたの腕が、スッと伸びてくるの。
私を静かに持ち上げ、優しく肌を撫でる。
だけど最近のその指先はとても冷たくて、怯えるように震えていて、あなたの手の中でじっと触れられている私まで悲しくなるの。
泣いて、笑って、喜んだと思ったら、また怒って、悲しんで。
私の前で、取り繕うように苦しい言い訳を始めたと思ったら、イライラしながら「ありがとう。分かった。もういいよ」なんて文字を打つ。
本当は、全然ありがとうなんて思ってないんでしょ?
ずっとずっと、いい加減な気持ちで雑な返事なんてして欲しくない。
いつでも自分のことを想っていて欲しい。
今すぐここに飛んで来て。
会いたい、会いに行きたいと思っているのに、そうは打てないの。
最近はいつも泣いてばかりいるあみちゃん。
こーへいとの別れ話がもつれてる。
きっかけは、こーへいの就職? それともお引っ越し?
私にはよく分からない。
こーへいと会っているときは、私はいつも眠っているから。
私があみちゃんに眠らされるのは、あみちゃんにとって大切なとき。
そういう時は、いつも持ち歩いてる私の電源を落とすの。
その間、私は動くことも話すことも、何にも出来なくなっちゃうけど、心配はしてないわ。
いつだって必ず、元に戻してくれることを知ってるから。
どれだけ遅くなっても、たまには忘れちゃってることがあっても、ちゃんと寝る前には気づいてくれる。
毎晩電源に私を繋いで、それから眠るあみちゃんが好き。
私は自分の体に活力が戻るのを感じながら、明日へ備えるの。
もしかしたら一番忙しくはりきっているのは、この時かもね。データを更新して、バックアップを取って。
内容の整理なんかもしているわ。
あみちゃんが眠っている間にする作業は、とっても大事なこと。
お店で初めて出会った時、嬉しそうに大はしゃぎしながら私を選んでくれた瞬間から、私の役目は決まっていたの。
あなたを応援するって。
だから近頃は、とても心配してるの。
いつもならとっくに眠っているような時間まで、あみちゃんは私を使ってる。
時には直接電源に繋いで、そのまま通話してる。
こーへいとの途切れ途切れで全く進まない会話に、疲れ果てているのね。
そうやって機嫌の悪い時には、まるで私を最悪の敵か悪者みたいに扱うの。
凄く怒った時なんかは、ベッドに叩きつけようとしたりなんかして。
それでも思いとどまって、柔らかいところにそっと投げるように置くの。
どれだけあなたが腹を立てていても、私を大切にしてくれていること、ちゃんと分かってるからね。
そのことにいつも感謝すると同時に、悲しくもなるの。
私には何が出来るんだろうって。
こーへいが浮気してるかもって、疑っているのね。
あみちゃん以外にも、気になる子がいるのかもって。
だけどそれを、こーへいには直接聞けないの。
はっきりしない不安を実際に口に出して言ってしまったら、本当になってしまう気がして。
浮気って言うのは、ちょっと考えすぎなのかもね。
ぐるぐるそんなことを考えて、あちこち私で検索して、出した結論は、やっぱり他に好きな人ができた?
もうあみちゃんのこと、何とも思ってないのかもって、そんな予感がしてる。
確信はないから誰にも話せなくて、あくまで自分だけの憶測だから。
間違ってるかもしれないし。
それで本心を隠して、ゆいなとか、まきくんに相談してる。
自分で思ってる本当のことや知ってることを全部話せないでいるから、いくら相談したってちゃんとした相談になんかならないのにね。
先週はゆいなとあやと一緒に、ご飯食べに行ったよね。
いつも繋がっているお友達に、私も久しぶりに会えて嬉しかった。
居酒屋の個室に入ったとたん、すぐに鞄から出してテーブルに置かれたから気づいたの。
あやのカバーが替わってるって。前はピンクの手帳タイプだったのに、透明なやつに替えたんだよね。
可愛かった!
アイドルの推し活とかドラマの話とか。
おしゃべりの合間にも、時々は私たちを握りしめ、検索したりアプリからメッセージを送ったり……。
久しぶりに賑やかで、とっても楽しかった!
だけどね、知ってるの。
そうして楽しそうにしている間にも、あみちゃんはずっと、こーへいからの連絡を待っていたこと。
こーへいには、女友達と遊びに行くとは言ってなかったもんね。
ただ用事があるとだけしか、伝えてなかったもんね。
面倒くさいって、思わせたいわけじゃないの。
そうじゃないの。
心配してほしいとか、構ってほしいとかじゃなくて、せめてあの人の心の中に、自分がちゃんと居ることを確かめたいって、それだけなの。
ずっとじゃなくていいの。
1日のうちの一瞬だけでいいから、自分のことを考えてほしい、想っていてほしいの。
あみちゃんのその気持ちは痛いほど分かるのに、私はずっとあみちゃんを待たせてる。
こーへいからの連絡が来たよって、通知を出してあげたい。
それをどれだけ見たいと思っているのか、知ってるから。
だけど私も、ウソはつけないの。
本当のことしか出来ないから。
ゴメン。
あみちゃんもそんなのはいらないよね。
分かるよ。
あみちゃんは、こーへいが遊びに行く時には、ずっと心配してるもんね。
飲み過ぎてないかとか、ちゃんとお家に帰れたのかとか。
もしかしたらーなんて、くだらないって分かってても、考えちゃう。
一言欲しいよね。
別にその遊ぶグループに、きれいな女の先輩とかいたっていいからさ。
私も待ってるよ、あみちゃんと一緒に。
こーへいからの通知が入るの。
こーへいと最近どうなってんのーとか聞かれても、何でもないようなフリをして、楽しいおしゃべり。
あやとまきくんは繋がってるから、今日の女子会のことも、こーへいに伝わる?
あみちゃんが真剣に悩んでるって。
だけどそうやって、人づてに探りを入れてくるのもイヤだし、気になるならこーへいが直接聞いてくればいいだけの話じゃない?
あやもまきくんも大大大親友だから、気にしてくれるのは凄く嬉しいんだけど、だからこそ逆に、心配かけたくないし、深刻過ぎる話も出来ないから、笑って誤魔化すの。
ゆいなとあやと居酒屋を出て、バイバイってしてから、電車ですぐに私をチェックするあみちゃんのこと、きっとこーへいも分かってくれてるよ。
女子会だったって証拠に、みんなで撮った日付け入りの新しいプリクラだってある。
かわいいよね。
私も気に入ってる。
ケースの中に入れてくれて、ありがと。
こーへいが何も言ってこないのは、あみちゃんのことを信じているからだよ。
もしかしたら今ごろは、どこ行ってるのか気になり過ぎて、死にそうになってるかもね。
きっとあみちゃんだけじゃないよ。
こーへいも同じこと思ってるよ。
なんてことないフリして、めっちゃ気にしてるの。
いつもカッコつけて、服のしわとか前髪気にしてるようなヤツがさ笑
きっと今ごろ、まきくんと二人で相談してるよ。
また例のあのあっまいコーヒー飲みながら「オレどーしよー」とか言っちゃってさ。
バカだよね。
それを想像すると、ちょっとウケる。
きっといつも気にしてる前髪も、真ん中からちょっとズレたところで分かれたままで、直ってないよ。
こーへいずっとそこ触って引っ張ってるよ。
「ハゲるー」とかいいながらさ。
なんで私からの連絡がないことを気にしてないの? って、怒ってる。
信じてるってことと、気にしてないってことは、絶対違うよね。
だからさ、疑ってるってのとは、ちょっと違う。
別にあみちゃんは、こーへいのこと心配してない。
ちゃんと信じてる。
だからこそ、信じてる相手を疑うわけにはいかないよね。
それでも不安になっちゃうのは、自分が勝手にそうなってるだけなんだって分かってる。
だから辛くて泣いてるんだよね。
あみちゃんがこーへいのこと、ちゃんと信じてるなら、しっかり信じてあげなきゃね。
ねぇ、覚えてる?
初めてこーへいから通知が来た時のこと。
最初はあみちゃん、何とも思ってなかったよね。
クラスによくいる地味で目立たない大人しい子って感じだったよね。
普通にクラスラインで繋がってただけだったのに、突然個別でもいいですかって、よく分からないヘンに丁寧なメッセ飛ばしてきてさ。
「誰コイツ」って思いながらも、許可したんだったよね。
それからさ、ずっとずっと、本当にゆっくりゆっくりだったよね。
月イチくらいだった通知が、月ニになって、それが週イチ、週ニ、週サンになってさ。
スタンプだけとか、おはようだけだったのが、いつの間にか授業のこととか、先生のこととか話すようになって。
昼休みの教室で、ワケわかんないスタンプ送ってきて、おかしくて笑ってたら、チラッと目が合ったりなんかしちゃってさ。
あみちゃんはその時に気づいたんだよね。
あれ、もしかしてこーへいって、私のこと好きなのかなって。
体育祭の時にはさ、なんかよく分からないけど、頑張ろうねってメッセ来て。
別にあみちゃんはやる気なんて全然なかったのに、こーへいがやたら張り切ってるみたいだったから、雰囲気読んで応援したんだよね。
だってあみちゃんなんて、玉入れと綱引きくらいしか出場なかったのにさ笑
何を頑張るんだろうなんて。
でもこういうのって、楽しんだ者勝ちだから。
それから周りのノリと勢いでなんかしゃべるようになっていって、気づいたらいつも一緒にいるようになってた。
毎日学校で会って、しゃべって、帰りは何となくいつも、一緒に帰る同じグループになっててさ。
ね、覚えてる?
学祭の準備で帰りが遅くなって、みんなでフードコート行ってラーメン食べたの。
他のみんなとは、そこでバイバイって別れたのに、なぜかその日はこーへいがあみちゃんのこと送ってってくれてさ。
なんか最初はくだらない話ばっかしてて、ずっと笑ってたのに、急にこーへいがしゃべらなくなっちゃって。
どうしたのかなーって。
なんかへんな空気になっちゃってさ。
いま思うと、あの時はめっちゃ緊張してたんだよね。
私の履歴には、ちゃんと残ってるよ。
しばらくホーム画面にしてたもんね。
記念のツーショット。
「好きです。付き合ってください」って告白されて、何となくこーへいの気持ちには気づいてたけど、全然知らなかったフリして、ちょっと考えさせてって。
そしたらアイツ、なんて言ったか覚えてる?
「じゃあいい」って言ったんだよね!
いま考えても、やっぱ酷くない?
言い合いしてるうちに、私を掴むあみちゃんの手にこーへいの手が重なって、「じゃあオレのこと、イヤじゃないなら付き合って」とか言われて、思わず「うん」って言っちゃったんだよね。
それから、おでことおでこがぶつかって、あみちゃんは「痛っ」ってなってんのに、キスしてきたの。
ぎゅっと繋がれた手をなかなかほどけなくて、やっと別れて電車乗ってからさ、あみちゃんめっちゃラインしてたよね!
いきなりグループ作って相談会が始まってさ。
『本気でちょっと今すぐ聞いて、お願い!!』グループ笑
今もそれ、ずっと下の方だけど、残ってるよ。
こーへいとの写真が増えだしたのは、この頃から。
どこかのSNSに上げるためなんかじゃない、大切な二人の思い出はずっと私の中に残ってる。
初めて一緒に見に行った映画のチケット。
水族館の入場券。
ジャンプしたイルカの写真は全然上手に撮れてなくて、こーへいから送り直してもらったっけ。
夏の終わりに見に行った海もその時食べたアイスも、カラオケの時のも全部ちゃんと残ってる。
二人でいつも飲む甘いコーヒーカップを並べて、接写したのもお気に入り。
こーへいって、いつもくだらない写真しか送ってこないから、こういうのが貴重なんだよね。
そうそう。
こーへいが送ってくるのって、食べかけのパスタとか、移動中の電車で撮った謎の鉄橋とかね。
たまに送られてくる友達と遊びに行った時のまともな画像とかは、別で保存してあるよね。
あみちゃんはもう忘れちゃってるかもしれないけど、こーへいの足の爪が割れたとかいって送ってきた画像も、まだ消去されてないから。
早く消して。
だからさ、このままで本当にいいの?
もう3ヶ月以上まともに連絡とれてないよ。
お互い環境変わって忙しいのは分かるけど。
こーへいに歩み寄りを求めるなら、あみちゃんの方も歩み寄りが必要じゃない?
通知全然入らなくて、私が関係ない通知で震える度に、私以上にビクってなってる。
いつでもどこでも私を肌身離さず、必死に握りしめてスワイプさせてるあみちゃんは、まるで息をしていないみたい。
このまま日曜が来ても何の連絡もなかったら、本気で別れようかと思ってる。
こんな辛い思いをしながらずっと待ってるより、いっそ別れてすっきりしたいって。それでもまだこーへいのことが好きって思えたなら、自分よがりのわがままかもしれないけど、また告白して、その時にフラれればいいって。
だから金曜の夜は、普通に仕事先の人とご飯食べに行って、普通に帰ってきた。
土曜日は溜まってた私用の事務手続きとか、気になってたライブの抽選にアプリから登録して送信とかしたりして。
後はお部屋の片付けとお買い物。
久しぶりに目覚ましのアラームをかけずに起きた日曜の朝は、自分の好きな甘くないコーヒー淹れて、まったり動画を検索したり漫画読んだり。
ダウンロードしたけど全然やってなかったゲームアプリを久しぶりに開いたりして、時が過ぎてゆくのをじっと待ってる。
午後になってお昼がまだだったことを思い出して、手の込んだ手作りオムライス作って写真も撮ったけど、載せるところも送るところもないね。
自分から動かないと、何もならないよ。
本当にいいの?
もう別れる覚悟出来た?
オムライス美味しいね。
泣かないで。
もう今日で連絡なかったら本当に別れようって決めた、日曜のお日さまが沈んでっちゃったね。
好きなら後悔しないで。
どれだけ距離が離れてたって、私がいるじゃない。
いつでもすぐに繋がれる。
そうでしょ?
ブロックしたって連絡先消したって、あみちゃんの中からこーへいが消えてなくならない限り、私から消えても残ってる。
だから勇気だして。
そのために私がいるんじゃない。
今日はまだ3時間残ってる。
もう21時? それともまだ21時?
私の画面をじっと眺めてたって、なんにも変わらな……あ、ほら! こーへいからの通話だよ!
やっときた!
ね、あみちゃん応えて?
なになに?
通話の表示が出ただけで泣いてるの?
もう、なにそれ。
いいから早く通話して?
うんうん。
よかったね。
私もまた、あみちゃんとこーへいのかわいい声がいっぱい聞きたい。
映画に行こう。
遊園地にも。
温泉だって、ずっとずっと一緒に行きたいって言ってたじゃない。
あ、ほら。
こーへいが今から、あみちゃんに会いに来るって!
【完】
そうするとね、真っ白で枝みたいに細いあなたの腕が、スッと伸びてくるの。
私を静かに持ち上げ、優しく肌を撫でる。
だけど最近のその指先はとても冷たくて、怯えるように震えていて、あなたの手の中でじっと触れられている私まで悲しくなるの。
泣いて、笑って、喜んだと思ったら、また怒って、悲しんで。
私の前で、取り繕うように苦しい言い訳を始めたと思ったら、イライラしながら「ありがとう。分かった。もういいよ」なんて文字を打つ。
本当は、全然ありがとうなんて思ってないんでしょ?
ずっとずっと、いい加減な気持ちで雑な返事なんてして欲しくない。
いつでも自分のことを想っていて欲しい。
今すぐここに飛んで来て。
会いたい、会いに行きたいと思っているのに、そうは打てないの。
最近はいつも泣いてばかりいるあみちゃん。
こーへいとの別れ話がもつれてる。
きっかけは、こーへいの就職? それともお引っ越し?
私にはよく分からない。
こーへいと会っているときは、私はいつも眠っているから。
私があみちゃんに眠らされるのは、あみちゃんにとって大切なとき。
そういう時は、いつも持ち歩いてる私の電源を落とすの。
その間、私は動くことも話すことも、何にも出来なくなっちゃうけど、心配はしてないわ。
いつだって必ず、元に戻してくれることを知ってるから。
どれだけ遅くなっても、たまには忘れちゃってることがあっても、ちゃんと寝る前には気づいてくれる。
毎晩電源に私を繋いで、それから眠るあみちゃんが好き。
私は自分の体に活力が戻るのを感じながら、明日へ備えるの。
もしかしたら一番忙しくはりきっているのは、この時かもね。データを更新して、バックアップを取って。
内容の整理なんかもしているわ。
あみちゃんが眠っている間にする作業は、とっても大事なこと。
お店で初めて出会った時、嬉しそうに大はしゃぎしながら私を選んでくれた瞬間から、私の役目は決まっていたの。
あなたを応援するって。
だから近頃は、とても心配してるの。
いつもならとっくに眠っているような時間まで、あみちゃんは私を使ってる。
時には直接電源に繋いで、そのまま通話してる。
こーへいとの途切れ途切れで全く進まない会話に、疲れ果てているのね。
そうやって機嫌の悪い時には、まるで私を最悪の敵か悪者みたいに扱うの。
凄く怒った時なんかは、ベッドに叩きつけようとしたりなんかして。
それでも思いとどまって、柔らかいところにそっと投げるように置くの。
どれだけあなたが腹を立てていても、私を大切にしてくれていること、ちゃんと分かってるからね。
そのことにいつも感謝すると同時に、悲しくもなるの。
私には何が出来るんだろうって。
こーへいが浮気してるかもって、疑っているのね。
あみちゃん以外にも、気になる子がいるのかもって。
だけどそれを、こーへいには直接聞けないの。
はっきりしない不安を実際に口に出して言ってしまったら、本当になってしまう気がして。
浮気って言うのは、ちょっと考えすぎなのかもね。
ぐるぐるそんなことを考えて、あちこち私で検索して、出した結論は、やっぱり他に好きな人ができた?
もうあみちゃんのこと、何とも思ってないのかもって、そんな予感がしてる。
確信はないから誰にも話せなくて、あくまで自分だけの憶測だから。
間違ってるかもしれないし。
それで本心を隠して、ゆいなとか、まきくんに相談してる。
自分で思ってる本当のことや知ってることを全部話せないでいるから、いくら相談したってちゃんとした相談になんかならないのにね。
先週はゆいなとあやと一緒に、ご飯食べに行ったよね。
いつも繋がっているお友達に、私も久しぶりに会えて嬉しかった。
居酒屋の個室に入ったとたん、すぐに鞄から出してテーブルに置かれたから気づいたの。
あやのカバーが替わってるって。前はピンクの手帳タイプだったのに、透明なやつに替えたんだよね。
可愛かった!
アイドルの推し活とかドラマの話とか。
おしゃべりの合間にも、時々は私たちを握りしめ、検索したりアプリからメッセージを送ったり……。
久しぶりに賑やかで、とっても楽しかった!
だけどね、知ってるの。
そうして楽しそうにしている間にも、あみちゃんはずっと、こーへいからの連絡を待っていたこと。
こーへいには、女友達と遊びに行くとは言ってなかったもんね。
ただ用事があるとだけしか、伝えてなかったもんね。
面倒くさいって、思わせたいわけじゃないの。
そうじゃないの。
心配してほしいとか、構ってほしいとかじゃなくて、せめてあの人の心の中に、自分がちゃんと居ることを確かめたいって、それだけなの。
ずっとじゃなくていいの。
1日のうちの一瞬だけでいいから、自分のことを考えてほしい、想っていてほしいの。
あみちゃんのその気持ちは痛いほど分かるのに、私はずっとあみちゃんを待たせてる。
こーへいからの連絡が来たよって、通知を出してあげたい。
それをどれだけ見たいと思っているのか、知ってるから。
だけど私も、ウソはつけないの。
本当のことしか出来ないから。
ゴメン。
あみちゃんもそんなのはいらないよね。
分かるよ。
あみちゃんは、こーへいが遊びに行く時には、ずっと心配してるもんね。
飲み過ぎてないかとか、ちゃんとお家に帰れたのかとか。
もしかしたらーなんて、くだらないって分かってても、考えちゃう。
一言欲しいよね。
別にその遊ぶグループに、きれいな女の先輩とかいたっていいからさ。
私も待ってるよ、あみちゃんと一緒に。
こーへいからの通知が入るの。
こーへいと最近どうなってんのーとか聞かれても、何でもないようなフリをして、楽しいおしゃべり。
あやとまきくんは繋がってるから、今日の女子会のことも、こーへいに伝わる?
あみちゃんが真剣に悩んでるって。
だけどそうやって、人づてに探りを入れてくるのもイヤだし、気になるならこーへいが直接聞いてくればいいだけの話じゃない?
あやもまきくんも大大大親友だから、気にしてくれるのは凄く嬉しいんだけど、だからこそ逆に、心配かけたくないし、深刻過ぎる話も出来ないから、笑って誤魔化すの。
ゆいなとあやと居酒屋を出て、バイバイってしてから、電車ですぐに私をチェックするあみちゃんのこと、きっとこーへいも分かってくれてるよ。
女子会だったって証拠に、みんなで撮った日付け入りの新しいプリクラだってある。
かわいいよね。
私も気に入ってる。
ケースの中に入れてくれて、ありがと。
こーへいが何も言ってこないのは、あみちゃんのことを信じているからだよ。
もしかしたら今ごろは、どこ行ってるのか気になり過ぎて、死にそうになってるかもね。
きっとあみちゃんだけじゃないよ。
こーへいも同じこと思ってるよ。
なんてことないフリして、めっちゃ気にしてるの。
いつもカッコつけて、服のしわとか前髪気にしてるようなヤツがさ笑
きっと今ごろ、まきくんと二人で相談してるよ。
また例のあのあっまいコーヒー飲みながら「オレどーしよー」とか言っちゃってさ。
バカだよね。
それを想像すると、ちょっとウケる。
きっといつも気にしてる前髪も、真ん中からちょっとズレたところで分かれたままで、直ってないよ。
こーへいずっとそこ触って引っ張ってるよ。
「ハゲるー」とかいいながらさ。
なんで私からの連絡がないことを気にしてないの? って、怒ってる。
信じてるってことと、気にしてないってことは、絶対違うよね。
だからさ、疑ってるってのとは、ちょっと違う。
別にあみちゃんは、こーへいのこと心配してない。
ちゃんと信じてる。
だからこそ、信じてる相手を疑うわけにはいかないよね。
それでも不安になっちゃうのは、自分が勝手にそうなってるだけなんだって分かってる。
だから辛くて泣いてるんだよね。
あみちゃんがこーへいのこと、ちゃんと信じてるなら、しっかり信じてあげなきゃね。
ねぇ、覚えてる?
初めてこーへいから通知が来た時のこと。
最初はあみちゃん、何とも思ってなかったよね。
クラスによくいる地味で目立たない大人しい子って感じだったよね。
普通にクラスラインで繋がってただけだったのに、突然個別でもいいですかって、よく分からないヘンに丁寧なメッセ飛ばしてきてさ。
「誰コイツ」って思いながらも、許可したんだったよね。
それからさ、ずっとずっと、本当にゆっくりゆっくりだったよね。
月イチくらいだった通知が、月ニになって、それが週イチ、週ニ、週サンになってさ。
スタンプだけとか、おはようだけだったのが、いつの間にか授業のこととか、先生のこととか話すようになって。
昼休みの教室で、ワケわかんないスタンプ送ってきて、おかしくて笑ってたら、チラッと目が合ったりなんかしちゃってさ。
あみちゃんはその時に気づいたんだよね。
あれ、もしかしてこーへいって、私のこと好きなのかなって。
体育祭の時にはさ、なんかよく分からないけど、頑張ろうねってメッセ来て。
別にあみちゃんはやる気なんて全然なかったのに、こーへいがやたら張り切ってるみたいだったから、雰囲気読んで応援したんだよね。
だってあみちゃんなんて、玉入れと綱引きくらいしか出場なかったのにさ笑
何を頑張るんだろうなんて。
でもこういうのって、楽しんだ者勝ちだから。
それから周りのノリと勢いでなんかしゃべるようになっていって、気づいたらいつも一緒にいるようになってた。
毎日学校で会って、しゃべって、帰りは何となくいつも、一緒に帰る同じグループになっててさ。
ね、覚えてる?
学祭の準備で帰りが遅くなって、みんなでフードコート行ってラーメン食べたの。
他のみんなとは、そこでバイバイって別れたのに、なぜかその日はこーへいがあみちゃんのこと送ってってくれてさ。
なんか最初はくだらない話ばっかしてて、ずっと笑ってたのに、急にこーへいがしゃべらなくなっちゃって。
どうしたのかなーって。
なんかへんな空気になっちゃってさ。
いま思うと、あの時はめっちゃ緊張してたんだよね。
私の履歴には、ちゃんと残ってるよ。
しばらくホーム画面にしてたもんね。
記念のツーショット。
「好きです。付き合ってください」って告白されて、何となくこーへいの気持ちには気づいてたけど、全然知らなかったフリして、ちょっと考えさせてって。
そしたらアイツ、なんて言ったか覚えてる?
「じゃあいい」って言ったんだよね!
いま考えても、やっぱ酷くない?
言い合いしてるうちに、私を掴むあみちゃんの手にこーへいの手が重なって、「じゃあオレのこと、イヤじゃないなら付き合って」とか言われて、思わず「うん」って言っちゃったんだよね。
それから、おでことおでこがぶつかって、あみちゃんは「痛っ」ってなってんのに、キスしてきたの。
ぎゅっと繋がれた手をなかなかほどけなくて、やっと別れて電車乗ってからさ、あみちゃんめっちゃラインしてたよね!
いきなりグループ作って相談会が始まってさ。
『本気でちょっと今すぐ聞いて、お願い!!』グループ笑
今もそれ、ずっと下の方だけど、残ってるよ。
こーへいとの写真が増えだしたのは、この頃から。
どこかのSNSに上げるためなんかじゃない、大切な二人の思い出はずっと私の中に残ってる。
初めて一緒に見に行った映画のチケット。
水族館の入場券。
ジャンプしたイルカの写真は全然上手に撮れてなくて、こーへいから送り直してもらったっけ。
夏の終わりに見に行った海もその時食べたアイスも、カラオケの時のも全部ちゃんと残ってる。
二人でいつも飲む甘いコーヒーカップを並べて、接写したのもお気に入り。
こーへいって、いつもくだらない写真しか送ってこないから、こういうのが貴重なんだよね。
そうそう。
こーへいが送ってくるのって、食べかけのパスタとか、移動中の電車で撮った謎の鉄橋とかね。
たまに送られてくる友達と遊びに行った時のまともな画像とかは、別で保存してあるよね。
あみちゃんはもう忘れちゃってるかもしれないけど、こーへいの足の爪が割れたとかいって送ってきた画像も、まだ消去されてないから。
早く消して。
だからさ、このままで本当にいいの?
もう3ヶ月以上まともに連絡とれてないよ。
お互い環境変わって忙しいのは分かるけど。
こーへいに歩み寄りを求めるなら、あみちゃんの方も歩み寄りが必要じゃない?
通知全然入らなくて、私が関係ない通知で震える度に、私以上にビクってなってる。
いつでもどこでも私を肌身離さず、必死に握りしめてスワイプさせてるあみちゃんは、まるで息をしていないみたい。
このまま日曜が来ても何の連絡もなかったら、本気で別れようかと思ってる。
こんな辛い思いをしながらずっと待ってるより、いっそ別れてすっきりしたいって。それでもまだこーへいのことが好きって思えたなら、自分よがりのわがままかもしれないけど、また告白して、その時にフラれればいいって。
だから金曜の夜は、普通に仕事先の人とご飯食べに行って、普通に帰ってきた。
土曜日は溜まってた私用の事務手続きとか、気になってたライブの抽選にアプリから登録して送信とかしたりして。
後はお部屋の片付けとお買い物。
久しぶりに目覚ましのアラームをかけずに起きた日曜の朝は、自分の好きな甘くないコーヒー淹れて、まったり動画を検索したり漫画読んだり。
ダウンロードしたけど全然やってなかったゲームアプリを久しぶりに開いたりして、時が過ぎてゆくのをじっと待ってる。
午後になってお昼がまだだったことを思い出して、手の込んだ手作りオムライス作って写真も撮ったけど、載せるところも送るところもないね。
自分から動かないと、何もならないよ。
本当にいいの?
もう別れる覚悟出来た?
オムライス美味しいね。
泣かないで。
もう今日で連絡なかったら本当に別れようって決めた、日曜のお日さまが沈んでっちゃったね。
好きなら後悔しないで。
どれだけ距離が離れてたって、私がいるじゃない。
いつでもすぐに繋がれる。
そうでしょ?
ブロックしたって連絡先消したって、あみちゃんの中からこーへいが消えてなくならない限り、私から消えても残ってる。
だから勇気だして。
そのために私がいるんじゃない。
今日はまだ3時間残ってる。
もう21時? それともまだ21時?
私の画面をじっと眺めてたって、なんにも変わらな……あ、ほら! こーへいからの通話だよ!
やっときた!
ね、あみちゃん応えて?
なになに?
通話の表示が出ただけで泣いてるの?
もう、なにそれ。
いいから早く通話して?
うんうん。
よかったね。
私もまた、あみちゃんとこーへいのかわいい声がいっぱい聞きたい。
映画に行こう。
遊園地にも。
温泉だって、ずっとずっと一緒に行きたいって言ってたじゃない。
あ、ほら。
こーへいが今から、あみちゃんに会いに来るって!
【完】