恐怖のギロチン回避！ 皇太子との婚約は妹に譲ります〜

21話

（私は繰り返さないと、決めたの）

　カサンドラは包み終わったパンをもらい、代金を払った。日も暮れてきたので、スズさんにまた明日来ると約束して、私達は国境を越えて別荘に戻っている。

　御者席のアオは荷馬車の荷台でパンを食べる、カサンドラとシュシュに。

「ドラ、シュシュ……悪いけど、あしたまた……」

　と、言いにくそうに話しだした。
　
「わかっている。明日も荷馬車を借りないといけないわね……でも、これから冒険、遠出と出かけることが多くなるから、もう一層のこと荷馬車を買ったほうがいいわね」

「いいですね、ドラお嬢様。明日のお弁当はどうしますか？」

「買ったパンもあるから鶏肉と卵、野菜のサンドイッチが食べたいわ。今日は疲れたから夕飯はパンですませて、キッシュは明日か時間がある時に焼きましょう」

「かしこまりました、お嬢様」

（フフ、アオったら私たちの会話を聞いて、御者席で"ぽかーん"とした顔してる）

「アオ、しっかり前を向いて」
「お、おう……カサンドラ、シュシュ、ありがとう」

「お礼はいらないわ。今日、私たちは冒険者パーティーになったのだから、仲間が困っていたら助けるに決まっているの」

（私は一度、仲間にしたのならとことん甘やかす。……そして、夢をみつけて出て行くというのなら全力で応援したい）

「冒険者パーティーか、よろしくな」

「えぇ、私かシュシュが困ったときは助けてね」
「ああ、いくらでも助ける」
　
「アオ、頼りにしていますわ」

　パンを仲良く食べながら別荘に戻ってきた、荷馬車を降りて別荘に向かおうとした、カサンドラとシュシュをアオが止めた。

「ドラ、シュシュ……今すぐに足を止めろ、この屋敷に誰がいる」

「え、誰かいる？　それ、ほんと？」

　カサンドラ達より前に出て、コクコク頷くアオ。

「嘘……お母様に何年も放置されていて、使用する者がいないと聞いていた別荘のはず……まさか、ドロボウが入ったのかしら？）

　――でも、この別荘に高価な物はない。

　

「なるべく足音を出さないよう、ゆっくり進め」

「わかったわ」
「かしこまりました」

　手にナイフを手にしたアオに守られながら、カサンドラ達はエントランスまで進み、別荘の中を見回した。しかし、どこも荒らされた様子はなく、もとからあった絵画と壺類にも被害がなさそう。


　――コツ、コツ
　
　すると奥からランタンの灯りが見え、コツコツとこちらにくる足音が聞こえてきた。

（ヒッ、アオの言う通り……この、別荘に誰かいる……まさかお化け？　私……そういうたぐい苦手なの）

　カサンドラは恐怖で前を行くアオの背中にしがみつき、隣のシュシュの手を握った。二人にカサンドラが震えているのが伝わったらしく。

「ドラ、大丈夫だ。オレが守る」
「微弱ながら、私もお嬢様をお守りいたします」

「ありがとう、ドラ、シュシュ」

　なんとも、頼もしい二人だ。

　

　ランタンの灯りと、聞こえてきた足音はカサンドラ達の近くで止まった。二人はエントランスに現れた人物を見たのか。アオは大きく息を吸い、シュシュの手に力がはいった。

「おまえは誰だ？」

　アオの威嚇にも似た低い声。
　その声に現れたお化け？　人物？　はまったく動じず。

「誰って、わたしのことかい？　この別荘の持ち主さ……」

「はぁ？　おまえの別荘？」
　
「いいえ、この別荘は数年前から空き家と聞いており、ドラお嬢様が奥様からいただいたものです」
　
「空き家？　ドラお嬢様？　ああ、孫のカサンドラのことかい」

　――孫のカサンドラ？

「どうして？　ドラお嬢様の名前を知っているのですか？」

　アオとシュシュが今、話しをしている人物の声にカサンドラは聞き覚えがあった。

（……う、嘘よね）
　
　いまから十年くらい前、公爵家に遊びにいらした……母方のお祖母様の声だ。でも、お祖母様って……お母様に数年前に亡くなっていると、カサンドラは聞いていた。