恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜

22話

 ――だけど、この声はお祖母様だわ。

「誰だ、お前」
「誰ですか?」

 アオは知らないのは当たり前だけど、シュシュもお祖母様が亡くなったとカサンドラが聞いた後から、屋敷に来たからお祖母様を知らない。

「見ない顔だね、カサンドラのお友達かい?」
 
 まさか……カサンドラに別荘を奪われたと思って、お墓からでてきたのかしら?

『人の屋敷に住むなぁ……』

 とか――そうなのだとしたら怖い。

「仲間のアオとメイドシュシュですわ。――ご、ごめんなさいお祖母様……けして無断で別荘を使用しているわけでなくて……お母様にこの別荘を譲ってもらったのですわ」

「そうかい、マーラが別荘を譲ったのかい。だが、カサンドラは皇太子殿下の婚約者だろ? なぜ王都から離れた、こんな辺鄙な土地にいるんだい?」
 
 アサルト皇太子殿下の婚約者……

「……それはお祖母様。……ひと月前以上に、私、アサルト皇太子殿下に婚約破棄されましたの。次の婚約者には妹のシャリィが選ばれるはずです」

「なに? 優秀なカサンドラが婚約破棄されただと? だが、この婚約は国王陛下が直々にお決めになったと聞いている……そんな簡単に婚約破棄できるものなかい?」
 
 少し、怒気をふくんだお祖母様の声。

 カサンドラは怒ってくださるお祖母様が嬉しくて、お祖母様のお顔を見たいけど……まだ怖くて、シュシュとアオの背から出られなかった。

「大丈夫だ、ドラ」
「えぇ、大丈夫です」

「あらあら、そうかい。カサンドラはまだ幽霊が怖いのか……わたしが怖がるカサンドラを面白がって、怖い話を聞かせすぎたからだな」

 怖い話……

「そ、そうですわ、お祖母様の魔法などのお話は面白いのですが。たまにおトイレから夜な夜な手が生えるとか……窓の外から亡霊が見ているだとか……真夜中、天井に黒い物がはりつくとか。当時の私には怖すぎて……しばらく一人で寝れなくなりましたのよ」

 それで、幽霊は今も怖いのですが。
 それよりも、ギロチンの方が恐怖だわ。

(あれ、そうなのだとしたら)

 幽霊でも、お祖母様に会えるのは嬉しい。
 また、たくさんのお話を聞かせてほしいわ。

 そう考えたら、カサンドラの震えが止まった。

「おや? 怖がる、気持ちが落ち着いたかな? ところでカサンドラはいま十八歳かい? 会わなくなって十年以上は経つ……顔を見せておくれ」

「はい、お祖母様……ごきげんよう」

 二人の背から顔を出して、幽霊のお祖母様に挨拶したのだけど……こんなに褐色のよい幽霊っているの。と思うくらい、お祖母様はお元気そう。

 なにより、十年以上もお会いしていないお祖母様のお年が、お会いした時よりもお若く感じる。

 ――えぇ、嘘。

 カサンドラは今度、違う恐怖にシュシュとアオの手を握った。

「どうした、ドラ?」
「どうなされたのですか、ドラお嬢様?」
 
「お、お、お祖母様が……マーラお母様と同じくらい……いいえ、それよりもお若く見えるわ」

「「えぇ!!」」

 カサンドラの衝撃な発言に、アオとシュシュも驚く。

「クックク、わたしの見た目が若いか、そうだろうね。わたしは……いや、この話はエントランスで話す話じゃないね。奥の食堂で、みんなで食事をしながら話そう」

 お祖母様は心底楽しそうに笑い。颯爽と、きびすをひるがえして食堂に歩いていく。

 カサンドラ達はその後を追った。
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