恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜

27話

 チロちゃんは泣き止み、笑ってくれた。

(アオ君には悪いけど、可愛い子は笑顔が一番ね!)

 パン屋の開店準備の手伝いをカサンドラ達は、チロちゃんに教えてもらいながらお手伝いをしていた。そこにチロのお母様の診断を終えた、お祖母様と旦那のスズが戻ってくる。

 スズはチロちゃんに今からみんなで大切な話があるからと、「ママの様子を見ていてあげて」と頼んだ。わかったとチロちゃん頷き、お母様のところに向かったのをみて、カサンドラ達はパン屋のイートインスペースの、テーブル席に腰掛け話を始めた。

「お祖母様、チロちゃんのお母様のご病気がわかったのですか?」
 
「ああ、分かったよ」
 
 お祖母様の診断でチロのママの病気は、ロンヌの花の毒花粉による炎症。その症状は体がだるくなり、熱が出て風邪に似た症状を引き起こす。いますぐ治療しないと熱は下がらず、衰弱していくとお祖母様は話した。

「妻は風邪ではなかったのですね。それで魔女様……妻の病気はどうしたら治るのでしょうか?」

「治療薬はスルールという柑橘系の果汁を飲ませれば、症状は時期に軽くなる」

「スルールの果実? 初めて聞く、アオはスルールを知っているか?」
 
 スズが隣のアオに聞くと、アオは頷く。
 
「あぁ、知ってる。確か国の西にそびえるミソギ山に実る、オレンジ色の果実じゃなかったかな? 果実が実っている場所までは分からないけど」

 そうアオがスズに伝えると、彼は眉をひそめた。
 必要なスルールの果実はカーシン国の西にそびえる、ミソギ山という山に実る。二人はその山の事を知っているみたいだけど、スズは眉をひそめたまま、腕を組んで黙ってしまった。

「しかし、タヌっころはよくスルールを知っていたね。もしスルールが見つかったら果実を絞って飲ませるか、皮を乾燥させてチップスにして食べるか、お茶にしても症状に効果はあるよ」

「魔女様、是非ともオレ達はフルールを手に入れたいのですが……ミソギの山の奥は瘴気により強いモンスターが出ると聞きます。お力をお貸しできませんか?」

「無理だね、わたしは診察までしかしない。あとは自分達でなんとかしな」

 アオはお祖母様の厳しい一声で、グッと押し黙る。

「……スズさん、冒険者ギルドに依頼を頼んだ方がいいですね」

「いや……アオ、私では冒険者に払う、依頼金すら払えない。一緒にミソギ山に行かないか?」

「一緒に⁉︎ オレだって行きたいけど無理だ。ミソギ山に行くには最低でもレベル50以上必要だ――レベル35のオレでは足手纏いだ」

「そうだよな、私も……レベル50には到達していない。だが、妻の病状が良くなるなら……」

「無理だ、死ぬぞ」

 その、アオの話にカサンドラはゴクリと息を呑んだ。

 スズとアオの二人の話では、冒険者ギルドにクエストを依頼するには依頼金と補償金、報奨金がいる。レベルが上がれば上がるほど、かなりの額がいる。

 そして、お祖母様が言ったスルールの果実は……カーシンの王都、国中の市場に稀にしか入荷しない幻の果実。

(スルールを手に入れるのは、中々難しい)

 チロのお母様の病状を治す手掛かりが見つかっても。
 スルールは簡単には手に入らないと、肩を落とし落ち込むスズ。
 
 その、スズにカサンドラは話しかけた。

「でしたら、私が条件付きで、金額すべてお支払いいたしますわ」
 
 と、ガタッと音を立てて、胸に手を当て立ち上がった。

「カ、カサンドラ様……それは本当ですか?」

「えぇ、本当よ」

 にっこり笑い、コクリと頷くカサンドラ。

「そ、それで……カサンドラ様、その条件とはなんでしょうか?」

「フフ、スズさん私が出す条件は難しいですわよ。その条件は! 私とシュシュの冒険レベルを5にあげて、生のスライムを見せることですわ!」

 カサンドラの出した条件にスズとアオは口を開けて、唖然とした表情を浮かべた。

(あら、難しい条件だったのかしら?)

 カサンドラは焦った。

「それがダメでしたら……パンの作りを教えてくださる?」

 と、条件を変えようとしたが。
 スズが違うと首を振る。

「いや、いや、ダメとかではありません。カサンドラ様、そんなに簡単な条件でよろしいのですか?」

(あれが簡単?)

「まぁ、シュシュ簡単な事ですって! 私、早くレベルを5に上げて生のスライムがみたいですわ!」

「私もです、ドラお嬢様」

 カサンドラとシュシュの余りの喜びように。
 スズは瞳に涙を浮かべながら、アオと笑った――その様子をお祖母様は優しげに見つめていた。
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