恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜

54話

 荷物を馬車の後ろに摘み、獣人のアオの耳と尻尾を隠すお揃いのローブと、楽な服装でカサンドラ達は馬車に乗り込んだ。2時間ずつの休みと、昼食を取るチルリの街まで4時間はかかる。

 少し大きめの場所を借りたので、ゆったり出来るだろう。

「アオ君、シュシュ、クッションをたくさん用意したから、眠っていいからね」
 
「ドラお嬢様、ありがとうございます」
「じゃ、俺は寝てるな」

 アオはクッションを頭と背にひき目をつむる、シュシュは恋愛物の本を読み始め、カサンドラは楽な姿勢で目を瞑った。

 2度と戻ることはないと思っていた、そこにカサンドラは向かっている。2人の婚約は喜ばしいと思う反面、どうでもいいと思う気持ちもある。

ただ、アオとシュシュとの旅を楽しみたい。

 カサンドラは1度の人生を終わり、大聖女マリアンヌ様の慈悲で時間が巻き戻っている。前の妹への恨みに沈んだカサンドラと、今のカサンドラは全く違う道を歩んでいるのだ。

 カサンドラを大切にしてくれる、素敵な家族も出来た。他に欲しいものなんてない、静かに暮らしていたい。早く、一刻も早く舞踏会が終わって欲しいとでさえ、思っている。

(両親に頼んで別荘はいただいて、公爵家から籍も抜いてもらおうかしら?)

 そうすれば煩わしいことら解放される。1度目のカサンドラの記憶はあの日見た最後の記憶以外、全くない。彼女も両親に愛されなくて、愛が欲しくて婚約者に依存した。

 なのに、その愛を奪われたのだ。
心が壊れ、恨むに決まっている。

 あれを目にしたから今のカサンドラは、妹を恨む道とは違う道を選ぶことが出来た。

 ――もう一度の命と、楽しい日々を与えてくださった。大聖女マリアンヌ様にお礼を言わなくてはね。



 カサンドラ達を乗せた馬車は何事もなく、2時間ずつの休みを取り、昼食を取る予定のチリルの街へと着いた。

 チリルの馬車置き場に着き。

「ドラお嬢様、どこか店に入りますか? それとも何か買ってきますか?」

「そうね、この街はラザニアが有名だったわね。ラザニアとパンを買ってきて馬車で食べましょう。それとシュシュ、御者に昼食代を渡してきてくださる? ここでの休憩は1時間半とも伝えて」

「かしこまりました、お嬢様」

 シュシュは御者のところに向かい、カサンドラは別荘を出発してから目を覚まさず、ぐっすり眠るアオを見た。

 もしかしたらアオは獣人――人間の国に向かうからと、緊張して眠れていないのかもしれない。と、考えたカサンドラはアオを起こさず、シュシュと2人で街に出て昼食を買うことにした。

「ドラお嬢様、御者に伝えてきました」
 
「ありがとう、シュシュ。私達もお昼を買いに向かいましょう!」

 馬車を降りようとしたカサンドラの手を、物音で目を覚ましたアオが掴む。まだ起き抜けの瞳とアオに負担をかけないよう、カサンドラは伝えた。

「アオ君、街でお昼を買ってきますわ。すぐ戻るので、馬車で待っていてくださる?」

「ん? 街? チリルの地に着いたのか……俺もいく」

 アオは耳と尻尾を消して、お揃いのローブを頭からスッポリ被り、カサンドラより先に馬車を降りると手を差し伸べた。
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