恐怖のギロチン回避！ 皇太子との婚約は妹に譲ります〜

68話

　お祖母様は帰るときに「あ、そうだ。その魔導具の指輪、何も聞かずに作ったから。一度だけ願えば、好きな装飾品に変わるから」と言って帰っていった。

「私は指輪より……細身のブレスレットがいいわ」
「私も、ブレスレットがいいです」
「オレもかな。指輪だと失くしそうで怖い」

　みんなで、セリィーヌお祖母様からいただいた魔導具を、ブレスレットに変えた。

「さぁ、今から王都観光に繰り出すわよ！」

　カサンドラと、シュシュはお揃いのポニーテールと色違いのワンピース。アオはシャツとスラックス。お揃いのカバンを持ち王都に向かった。宿屋から出て王都の店が立ち並ぶ中央通りに向かった。

　この場所……カサンドラの瞳にあの日見た、光景が蘇る。

　ここは巻き戻し前。シャリィを毒殺しようとしたとして捕まり。ボロボロの髪と肌、手枷と足枷を付けられ騎士に背中を押され、大勢に罵られ歩いた道――でも、そんな未来は来ない。

「アオ君、シュシュ、そこの雑貨屋の店に入らない？」
「ドラお嬢様。可愛い、髪飾りが売っています」
「オレは財布を見るかな？」

「じゃ、行きましょう！」

　カサンドラはアオとシュシュと並んで、笑いながら中央通りを歩いた。手作りの髪飾りと鏡、アオのお財布を買いも店を後にする。買ったものをお揃いのカバンにしまおうとして、カサンドラは一枚の紙切れを見つけた。

「あら、お祖母様の字だわ」

　内容は『そのお揃いのカバン"マジックバッグ"にしといたから』と書いてあった。アオとシュシュにその紙を見せると、2人の瞳が開き……持っているカバンを見つめた。

　アオはひたいの汗を手で拭き。

「おいおい、マジックバッグなんて言ったら、一生買えないくらいの……最高級品だぞ！　いや、何気なしに今朝、貰った魔導具もだな」

「はい、貰ってからなんですが……魔導具とマジックバッグ……私の一生分のお給金でも一生買えません！」

　2人が怖気付く。
　カサンドラは笑い。
　
「だったら、どちらも大切に使いましょう。その方がお祖母様は喜ぶと思うわ。3人で別荘へ戻ったら、たくさん御礼も言いましょう」

　2人はコクコク頷いた。


　昼食をオシャレな喫茶店で済まして、目的の路地裏にある古書店へとカサンドラ達は向かった。書店のひらさは広くないが……カサンドラが目を引く恋愛、冒険、魔法の本ばかり。

　絶版された本もあり、あれもこれもと買い込んで店をあとにした。

「アオ君、シュシュ、このカバン凄い。古書店で30冊の本を買ったのに、全然重くないわ」

「オレも欲張って15冊も買ってもらった……」
「私もです」

　結構な値段の本ばかりで、怖気付く2人に。

「あら？　遠慮はいらないわ。みんなが買った本は私も読むから。みんなで読みまわしをしましょう」

　さあ、次々とカサンドラ達は王都観光を楽しんだ。
　



　♱♱♱

　


「よろしくお願いします！」
「かしこまりました」

　舞踏会から2泊3日間に及ぶ王都観光お終えて、カサンドラ達は別荘へと馬車で帰ってきている。来るときとは違う街の宿屋に泊まり、その街の名物を食べた。

　1日目を終えた早朝。カサンドラは「話がある」と、アオ、シュシュに馬車の中で伝えた。それは公爵家と縁を切って、平民になりたいと。公爵と縁を切れば別荘と、毎月のお父様からの生活費の入金がなくなるとも伝えた。

「オレはドラがそう決めたのなら、何も言わない。カーシン国で、冒険をしながらオレの家に住めばいい」

「私もドラお嬢様が、お決めになったことに反対はしません。ズッとお側について参ります」

「ありがとう、アオ君、シュシュ。明日、公爵家に寄るね」

　カサンドラがそう決めたのは……巻き戻る前でも、今でも、カサンドラは両親に愛されていない。シャリィが魅了魔法のブレスレットを使用しても、使用しなくても同じなのだ。

　だから、舞踏会が終わるまで。

　運命の狂わせで、カサンドラが断頭台で命を失ったとき。アオとシュシュを路頭に惑わせないよう、少しでもいいお金が必要だとカサンドラは考えた。

　だから、ギリギリまで公爵家に残り、お父様から僅かばかりの生活費を毎月いただいていた。