愚かな妹
「舐めろよ」
犬に命令するように落ち着いた声である。一瞬何を言われたかわからなくなって、もう一度彼の顔を見上げた。彼はちっともおもしろくなさそうな顔をしていた。まるで興味がないと言わんばかりに能面だった。そして無遠慮に親指を口の中に突っ込んだ。
「ひう」
「お前はいつも口達者で、糞生意気で。ガキのくせに発育だけは良くて」
舌にわざわざ爪をたてられた。痛くて思わず目を瞑った。
「伊織にもわけてやれよ。その乳房」
伊織ーーーー。その名前を聞いて、思いっきり指を噛んでやった。
彼は「いった!!」と悲鳴をあげて指を引き抜いた。
不満そうに睨みつけられ、同じようにこちらも睨み返す。
「他の女の名前を出さないで、無粋なのよ」
「はいはい申し訳ありませんねデリカシーがなくて」
あ、制服は着たままでね。なんて続けてのたまう。
ーーーむっかつく。
伊織は私の姉だ。姉は六つ離れていていつも優しい。
だがそれが気に食わない。お姉ちゃんだからといつも欲しがったものは譲ってくれる。
その代わりよく我慢したとばかりに、両親は私に上げたお古よりもいいものを渡す。
ブレスレットだって、なんだってそうだ。いつもいつも姉のほうがいいものを持っている。
よく両親からお姉ちゃんを見習いなさいという言葉をことあるごとに言われしだいに姉を憎んでいた。