麗しきヴァンパイアは大和撫子に救われる


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イオンは日本の知らない場所の知らない公園にある、古びた木のベンチに座っていた。
パリから日本に到着してまだ半日だが、飛行機に乗っていた時間も考えるとそれなりの長時間、人間の血もニンニクも摂取していない。

ヴァンパイアは通常ニンニクが大の苦手だが、諸事情でイオンはニンニクを一日に一度は摂取しなければならなくなっていた。
その上女から血を吸わなければならないのに、ニンニク臭がするとどれだけの女に毛嫌いをされただろう。

出てきたルーマニアからまずは中欧諸国を回ったが、イオンの整った顔に素晴らしいルックス目当てで近づいてきた女も、ほとんどがニンニクの臭いに顔をしかめて遠ざかる。
何とか一度吸血出来れば御の字、そんな状態で欧州を渡り歩いた。

女性というのは自己主張がしっかりとしていて、ノー!と強く言われてしまえばそれを無理強いするなど貴族として矜持に反する。
引く手あまたな生活を国では送っていたイオンも女性を見つける事に疲れ果てていたそんな時、鄙びたパリのバーで男達が話しているのを聞いてしまった。

日本人の女性は物静かで優しい、結婚するなら日本人だと。
押せばそれなりに、などと下世話な内容になってきたが、吸血するには日本人の方が楽そうだ。

誇り高きヴァンパイアの貴族であるにもかかわらず、こんなになりふり構わず血を求めないとならないなど恥ずかしいことだと思いながら日本に来た。
だが欧州とは全く違う世界にどう動けば良いのかわからず、とりあえず電車に乗ったが終点で降りて途方に暮れていた。
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