好きな歌

景子




私たちお似合いの 恋人と呼ばれてたんよ

二人して夢一つ 見つめ心つないでたんよ

過ぎ去ってゆく季節 かなわんのんが夢なんやと

繰り返し教えても あきらめんかったは嘘やない



私 女やから いつまでも待とうと決めてたんや

いかんのんか いかんのんか

恋人のままじゃ いかんのか


あの男の唄 聞いた人 皆 涙流してくれるまで



それやのに 父さんは あの男を家に呼びつけて

長すぎる春はいつ 終わりにするんか 責めよった

景子はもう 若くない 本当にこの娘が好きなら

売れん唄 あきらめて まともな仕事をしたらどうや



いやな 実は景子にな いい縁談話がきてるんや

すまんけど すまんけど この子と別れてほしいんや


父さん両手 畳につけて 頭下げたまま泣きやった



母さんも泣いていた 私も いややと泣いた

唇を噛みしめて あの男も背中で泣いていた



家を捨てて 親も捨てて ついていこうと決めてたんよ

それやのに あの男は 黙ってこの街を出て行った




私、 あの男のこども 本当は……


言えんかった 言えんかった

苦しませるのが 辛いから


悲しいくらい 夢追いかけて

他になにも見えへん男やった



あの人のコンサート 今夜この街でありますと

買い物の帰り道 白い車が教えて行った






伊藤敏博 「景子」
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