妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
旅の宿
北上していく毎に、シュガーパウダーのように降りかかっていた雪が徐々に侵食し、景色を白に染め上げていく。
長距離用の馬車を乗り継いだ旅は一週間を過ぎていた。新たな滞在場所となる町へと到着し、宿もすぐに決まった。
既にミルディン地方までは、目と鼻の先。
出来るだけ早急に王都の屋敷を出ようと、計画を実行したが、それでも自分達の計画よりも随分と早い。
公爵家に行方不明扱いをされ、連れ戻されては困るので別棟に置き手紙を残してきたものの、油断は出来ない。
そこでティアリーゼは現在目立つ髪を茶髪のウィッグの中に仕舞い込んでいる。
短い茶髪の髪に加え、産まれて初めて履くズボンの装いは、どうみても可愛らしい少年そのものだ。
そしてユリウスには早馬を使って手紙を届けている。
ユリウスへの手紙の内容は「ミルディンへの視察も兼ねたいので、当初よりもユミール村への到着が早まる予定である」との内容を書き綴った。
ユリウスが住む城の近くにはユミールという村があるらしい。通り路でもあるそこを目指し、暫くの滞在場所とする予定だ。
面倒な令嬢だと思われたら、潔くそのまま公爵令嬢の身分を捨てて何処かに行こう。むしろ自分の行動は、そうなるのを望んでいるかのようだ。
宿に併設されている食堂で昼食を取り終え、現在はお茶の時間。ターニャが買い物へと出掛けている間ティアリーゼの相手は、マシューがしてくれている。
客が自分達だけの静かな食堂の窓際の席。二人分のお茶を乗せたテーブルを挟んでマシューと、少年に変装しているティアリーゼは椅子に腰掛けた。
肘をテーブルに乗せ、窓の外を眺めているマシューは普段よりも態度が悪く見える。
身分を偽装するための演技だろうか。
彼の目付きが少々悪いのは生まれつきだが、公爵家の使用人とは思えない所作に、ティアリーゼは物珍しい思いで眺めていた。
マシューはティアリーゼに視線を向ける。
客は自分達だけだが、出来るだけ声を落として話し始めた。
「だからとっとと旦那様に、全部ブチ撒けてしまえば良かったんですよ。あんな母娘に長年好き勝手にされた挙句、最終的にこれですよ」
「でも、公爵家だけの問題ではないの。わたしにはリドリス殿下のお心さえ、良く分からなくなってしまったの。心が通じ合えない相手と添い遂げるより、信頼し合える相手を選ぶ方がきっと、リドリス殿下にとっても、国にとっても最善なはずよ」
問題はミランダとマリータに限らない。リドリスとの関係についてこそ、ティアリーゼの心が折れた一番の理由だった。
「ではマリータの方がリドリス殿下のお相手に相応しいと?」
「陛下やリドリス殿下のご判断の通り、少なくともわたしよりかは……」
「本気ですか?あのマリータが王太子妃ですよ?……ああ、そうだ。リドリス殿下と仲良し夫婦にならなくとも、王妃となった後はお嬢様がバリバリと国政を担い、実質を握って乗っ取ってしまえば……」
「無茶を言わないで」
本気なのか、ふざけているか分からない提案にティアリーゼは、短く溜息をつく。
「無茶と言えば、この旅も中々の無茶……」
「……」
「まぁ賛同して実行したリタや俺らも十分無茶で無謀ですけど、悪運の強い俺もいるんで絶対に何とかなります。
それに前から遠縁の親戚に、奉公先を移りたければ紹介状のツテがあるから言ってくるようにと言われていますし。それ以外にも考えがいくつかあります。だからきっと大丈夫です」
長距離用の馬車を乗り継いだ旅は一週間を過ぎていた。新たな滞在場所となる町へと到着し、宿もすぐに決まった。
既にミルディン地方までは、目と鼻の先。
出来るだけ早急に王都の屋敷を出ようと、計画を実行したが、それでも自分達の計画よりも随分と早い。
公爵家に行方不明扱いをされ、連れ戻されては困るので別棟に置き手紙を残してきたものの、油断は出来ない。
そこでティアリーゼは現在目立つ髪を茶髪のウィッグの中に仕舞い込んでいる。
短い茶髪の髪に加え、産まれて初めて履くズボンの装いは、どうみても可愛らしい少年そのものだ。
そしてユリウスには早馬を使って手紙を届けている。
ユリウスへの手紙の内容は「ミルディンへの視察も兼ねたいので、当初よりもユミール村への到着が早まる予定である」との内容を書き綴った。
ユリウスが住む城の近くにはユミールという村があるらしい。通り路でもあるそこを目指し、暫くの滞在場所とする予定だ。
面倒な令嬢だと思われたら、潔くそのまま公爵令嬢の身分を捨てて何処かに行こう。むしろ自分の行動は、そうなるのを望んでいるかのようだ。
宿に併設されている食堂で昼食を取り終え、現在はお茶の時間。ターニャが買い物へと出掛けている間ティアリーゼの相手は、マシューがしてくれている。
客が自分達だけの静かな食堂の窓際の席。二人分のお茶を乗せたテーブルを挟んでマシューと、少年に変装しているティアリーゼは椅子に腰掛けた。
肘をテーブルに乗せ、窓の外を眺めているマシューは普段よりも態度が悪く見える。
身分を偽装するための演技だろうか。
彼の目付きが少々悪いのは生まれつきだが、公爵家の使用人とは思えない所作に、ティアリーゼは物珍しい思いで眺めていた。
マシューはティアリーゼに視線を向ける。
客は自分達だけだが、出来るだけ声を落として話し始めた。
「だからとっとと旦那様に、全部ブチ撒けてしまえば良かったんですよ。あんな母娘に長年好き勝手にされた挙句、最終的にこれですよ」
「でも、公爵家だけの問題ではないの。わたしにはリドリス殿下のお心さえ、良く分からなくなってしまったの。心が通じ合えない相手と添い遂げるより、信頼し合える相手を選ぶ方がきっと、リドリス殿下にとっても、国にとっても最善なはずよ」
問題はミランダとマリータに限らない。リドリスとの関係についてこそ、ティアリーゼの心が折れた一番の理由だった。
「ではマリータの方がリドリス殿下のお相手に相応しいと?」
「陛下やリドリス殿下のご判断の通り、少なくともわたしよりかは……」
「本気ですか?あのマリータが王太子妃ですよ?……ああ、そうだ。リドリス殿下と仲良し夫婦にならなくとも、王妃となった後はお嬢様がバリバリと国政を担い、実質を握って乗っ取ってしまえば……」
「無茶を言わないで」
本気なのか、ふざけているか分からない提案にティアリーゼは、短く溜息をつく。
「無茶と言えば、この旅も中々の無茶……」
「……」
「まぁ賛同して実行したリタや俺らも十分無茶で無謀ですけど、悪運の強い俺もいるんで絶対に何とかなります。
それに前から遠縁の親戚に、奉公先を移りたければ紹介状のツテがあるから言ってくるようにと言われていますし。それ以外にも考えがいくつかあります。だからきっと大丈夫です」