妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
ユリウスの使い
室内が静寂に包まれる中、外の風が窓をガタリと鳴らした。
静かな雪景色の村にて、突如ティアリーゼを訪ねてきた若い男。
彼は闇の様に真っ暗な髪と、不思議な金色の瞳を持ち、顔立ちは非常に整っている。
魔界の貴公子が、自分を迎えに来たのではないかと錯覚する程だった。
「申し遅れました、私はユリウス様の使いの者で、レイヴンと申します。ティアリーゼ様が予定よりも早くクルステア家をご出立なされたと聞き、お迎えに上がらせて頂いた次第でございます。ミルディンの城では、すぐにでもティアリーゼ様をお迎えさせて頂く手筈が整っております」
「ユリウス様の……」
「はい。ご婚約者となられるティアリーゼ様がミルディンに対し、とても関心を示して頂けているようで、そのことについて我が主人は深く感激しておりました。すぐにでもユリウス様にお会いして頂き、視察は是非二人ご一緒に……」
何故自分がティアリーゼだと見破られたのかと疑問が浮かび、返答をするのに逡巡する。
レイヴンと名乗る男が、ティアリーゼの姿絵を見た上で確信したのだろうか。
それなら変装しているティアリーゼを見分けられたとしても、ある程度納得がいく。だが自信があった筈の男装が、全く意味をなさなかったと知り悄然とした。
(それにしても手紙を早馬で出したものの、既にユリウス殿下の元に手紙が渡っていて、こんなにも早く使いの方が来るなんてあり得るのかしら?)
本当にユリウスからの使者なのか疑わしく、判断する術がない。
しかし嘘を付いているとしたら、何故ユリウス宛に送った手紙の内容を把握しているのだろうか?
現に『ミルディンを視察するため、早めに屋敷を出発している』と手紙に綴っている。
やはり偽り無く、正真正銘ユリウスからの使者なのだろうか。
(分からないわ……)
逡巡するティアリーゼに、レイヴンは胸元から取り出した物を掌に乗せて見せた。
「こちらを」
彼が見せたのは、懐中時計。
刻まれているのは、ランベール王家の家紋と良く似た物。本来の家紋は三体の獅子が描かれた物だが、これは一体だけが一角獣となっている。
存在が不確かな一角獣を描く事で、隠された王子を表している──つまり、ユリウスの紋章だ。ティアリーゼが王都を出る前に教わったことだ。
(ユリウス殿下の紋章……)
にこりと微笑む彼は最初の印象から一変して、随分と人間らしい。
確かに彼は、王族に仕えるに相応しい身なりと所作である。
そんな彼を前にして、ティアリーゼは慌てて口を開いた。
「ご、ごめんなさい。こんなにも早く出立してしまった挙句、迎えに来させてしまうなんて。随分とお手を煩わせてしまいました……」
「とんでもございません。ただ、ティアリーゼ様はユリウス様の大切な方。安全に城へと送り届けさせて頂くために、急ぎ駆け付けた次第です」
これ以上公爵家で暮らしたくないといった理由から、勝手に出立を早めてしまった。改めて自分の我儘で、随分と沢山の人を巻き込んでしまったと、ティアリーゼは自責の念に苛まれそうになっていた。
そしてユリウスが使者を送った理由に、少なからず「勝手に視察など余計なことはするな」との牽制の意味も含まれているのではと思えてならなかった。
静かな雪景色の村にて、突如ティアリーゼを訪ねてきた若い男。
彼は闇の様に真っ暗な髪と、不思議な金色の瞳を持ち、顔立ちは非常に整っている。
魔界の貴公子が、自分を迎えに来たのではないかと錯覚する程だった。
「申し遅れました、私はユリウス様の使いの者で、レイヴンと申します。ティアリーゼ様が予定よりも早くクルステア家をご出立なされたと聞き、お迎えに上がらせて頂いた次第でございます。ミルディンの城では、すぐにでもティアリーゼ様をお迎えさせて頂く手筈が整っております」
「ユリウス様の……」
「はい。ご婚約者となられるティアリーゼ様がミルディンに対し、とても関心を示して頂けているようで、そのことについて我が主人は深く感激しておりました。すぐにでもユリウス様にお会いして頂き、視察は是非二人ご一緒に……」
何故自分がティアリーゼだと見破られたのかと疑問が浮かび、返答をするのに逡巡する。
レイヴンと名乗る男が、ティアリーゼの姿絵を見た上で確信したのだろうか。
それなら変装しているティアリーゼを見分けられたとしても、ある程度納得がいく。だが自信があった筈の男装が、全く意味をなさなかったと知り悄然とした。
(それにしても手紙を早馬で出したものの、既にユリウス殿下の元に手紙が渡っていて、こんなにも早く使いの方が来るなんてあり得るのかしら?)
本当にユリウスからの使者なのか疑わしく、判断する術がない。
しかし嘘を付いているとしたら、何故ユリウス宛に送った手紙の内容を把握しているのだろうか?
現に『ミルディンを視察するため、早めに屋敷を出発している』と手紙に綴っている。
やはり偽り無く、正真正銘ユリウスからの使者なのだろうか。
(分からないわ……)
逡巡するティアリーゼに、レイヴンは胸元から取り出した物を掌に乗せて見せた。
「こちらを」
彼が見せたのは、懐中時計。
刻まれているのは、ランベール王家の家紋と良く似た物。本来の家紋は三体の獅子が描かれた物だが、これは一体だけが一角獣となっている。
存在が不確かな一角獣を描く事で、隠された王子を表している──つまり、ユリウスの紋章だ。ティアリーゼが王都を出る前に教わったことだ。
(ユリウス殿下の紋章……)
にこりと微笑む彼は最初の印象から一変して、随分と人間らしい。
確かに彼は、王族に仕えるに相応しい身なりと所作である。
そんな彼を前にして、ティアリーゼは慌てて口を開いた。
「ご、ごめんなさい。こんなにも早く出立してしまった挙句、迎えに来させてしまうなんて。随分とお手を煩わせてしまいました……」
「とんでもございません。ただ、ティアリーゼ様はユリウス様の大切な方。安全に城へと送り届けさせて頂くために、急ぎ駆け付けた次第です」
これ以上公爵家で暮らしたくないといった理由から、勝手に出立を早めてしまった。改めて自分の我儘で、随分と沢山の人を巻き込んでしまったと、ティアリーゼは自責の念に苛まれそうになっていた。
そしてユリウスが使者を送った理由に、少なからず「勝手に視察など余計なことはするな」との牽制の意味も含まれているのではと思えてならなかった。