妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
イエティ
ティアリーゼが見つめる彼は、シャベルを使って、謎の雪像を作りながら独り言とは思えぬ程元気に呟いた。
「こうか?中々いい感じになってきたように見えるぞ、僕のイエティ!しかし何だか右肩が盛りがってて、左右均等ではないような……。少しだけ削るか」
仮面の青年はシャベルを雪像の右肩に当てる。
そして慎重に不要な部分を削いでいっているらしく、緊張感漂う中ではとても声を掛けられそうにない。
胸中でそう思っていたが、彼はをあげた。
「あ」
力加減を間違えたらしい。イエティと呼んでいる雪像の右腕全てが、ボトリと虚しい音を立てて地面に落下していった。
「イエティ!!おい、大丈夫か!?イエティー!!」
声は涼やかでかなりの美声にも関わらず、発している言葉が絶妙に間抜けだ。
(変な人がいる……)
「変な人」それはティアリーゼの素直な感想であり、目の前の青年への第一印象だった。
呆気にとられていると、いつの間にかレイヴンがユリウスと思しき青年の隣に歩み寄っていた。
「もう少しこうしたら如何ですか?」
言いながらレイヴンは、手刀で左手の腕も刮ぎ取った。
「貴様!何をするっ」
「これで左右均等になりましたよ」
確かに両腕がなくなり、左右均等になったといえる。全く悪びれた様子など感じられないレイヴンの笑みに「悪意はなかったのかも」と騙されそうになってしまいそうな程だ。
だが常日頃から側にいる彼には、微塵も通用せず、仮面の青年はレイヴンの顔に、人差し指を向けて言い放つ。
「煩い。ちゃんと腕が付いている状態で、元に戻しておけ」
「元に戻すって、右肩だけ盛り上がった感じにですか?」
「違う、元通り左右均等にだ」
元の状態とはレイヴンの言う通り、雪像の腕が左右不揃いの状態が正しい。
仮面の青年は元が不揃いだったのを無かった事にし、挙句完璧な状態に仕上げるよう、強制したのだった。
レイヴンは態とらしく盛大な溜め息を吐くと、人使いの荒い領主ですねと呟いた。
(領主……。レイヴンの口の利き方はどうかと思うけど、やっぱりこの方がユリウス殿下なのだわ)
ユリウスを前にしようが本人がいなかろうが、慇懃無礼な彼の態度は変わらないらしい。
「む?」
ティアリーゼの気配に気付いたのか、ユリウスは振り返ってこちらを確認してきた。仮面越しだが、しっかりと双眸と目が合う。彼の美しい、アメジストの瞳が印象的で、つい釘付けになりそうになる。
元々人見知りであるティアリーゼだが、今まで関わった事のない人種のユリウスに気圧され、内心狼狽していた。
「む……婚約者殿か」
「お、お初にお目に掛かりま……」
ティアリーゼが最後まで挨拶を言い終える事なく、ユリウスが視界から消えた──というのも、彼は雪に足を滑らせて盛大にこけた。
「こうか?中々いい感じになってきたように見えるぞ、僕のイエティ!しかし何だか右肩が盛りがってて、左右均等ではないような……。少しだけ削るか」
仮面の青年はシャベルを雪像の右肩に当てる。
そして慎重に不要な部分を削いでいっているらしく、緊張感漂う中ではとても声を掛けられそうにない。
胸中でそう思っていたが、彼はをあげた。
「あ」
力加減を間違えたらしい。イエティと呼んでいる雪像の右腕全てが、ボトリと虚しい音を立てて地面に落下していった。
「イエティ!!おい、大丈夫か!?イエティー!!」
声は涼やかでかなりの美声にも関わらず、発している言葉が絶妙に間抜けだ。
(変な人がいる……)
「変な人」それはティアリーゼの素直な感想であり、目の前の青年への第一印象だった。
呆気にとられていると、いつの間にかレイヴンがユリウスと思しき青年の隣に歩み寄っていた。
「もう少しこうしたら如何ですか?」
言いながらレイヴンは、手刀で左手の腕も刮ぎ取った。
「貴様!何をするっ」
「これで左右均等になりましたよ」
確かに両腕がなくなり、左右均等になったといえる。全く悪びれた様子など感じられないレイヴンの笑みに「悪意はなかったのかも」と騙されそうになってしまいそうな程だ。
だが常日頃から側にいる彼には、微塵も通用せず、仮面の青年はレイヴンの顔に、人差し指を向けて言い放つ。
「煩い。ちゃんと腕が付いている状態で、元に戻しておけ」
「元に戻すって、右肩だけ盛り上がった感じにですか?」
「違う、元通り左右均等にだ」
元の状態とはレイヴンの言う通り、雪像の腕が左右不揃いの状態が正しい。
仮面の青年は元が不揃いだったのを無かった事にし、挙句完璧な状態に仕上げるよう、強制したのだった。
レイヴンは態とらしく盛大な溜め息を吐くと、人使いの荒い領主ですねと呟いた。
(領主……。レイヴンの口の利き方はどうかと思うけど、やっぱりこの方がユリウス殿下なのだわ)
ユリウスを前にしようが本人がいなかろうが、慇懃無礼な彼の態度は変わらないらしい。
「む?」
ティアリーゼの気配に気付いたのか、ユリウスは振り返ってこちらを確認してきた。仮面越しだが、しっかりと双眸と目が合う。彼の美しい、アメジストの瞳が印象的で、つい釘付けになりそうになる。
元々人見知りであるティアリーゼだが、今まで関わった事のない人種のユリウスに気圧され、内心狼狽していた。
「む……婚約者殿か」
「お、お初にお目に掛かりま……」
ティアリーゼが最後まで挨拶を言い終える事なく、ユリウスが視界から消えた──というのも、彼は雪に足を滑らせて盛大にこけた。