妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
迷子じゃないです
鎮痛な面持ちを浮かべるユリウスの姿に、ソレイユの王子ミハエルが首を捻っていると、レイヴンより声が掛けられた。
「取り敢えず立ち話も何ですから、中へとお入り下さい。例え庭園荒らしだとしても、他国の王族を追い返す訳には参りませんから」
最後に皮肉を忘れないレイヴンによって、ソレイユからやって来た二人は客人として招かれることとなった。
丁度お茶の時間だったこともあり、このまま客人を招いてのお茶会へと移行した。
サロンのテーブルの上には琥珀色のお茶が人数分並び、果物で飾られたタルトなども用意されている。
長椅子にユリウスとティアリーゼが並び、向かいの席にソレイユの二人が腰掛ける。
ユリウスと二人きりのお茶の時間となる筈が、四人に増えただけで随分と賑やかになったと、ティアリーゼは感じていた。
ユリウスはミハエルを前に、かねてからの疑問を口にした。
「また迷子か?」
「違う!前回は武者修行の旅に出ただけで、決して迷子ではないっ」
ミハエルは否定しているが、確かに旅装にしてもかなりボロボロで、あちこち破れたりもしている。
王子様のお忍びの旅だから変装しているのかと、当初ティアリーゼは思っていたが、見事な蜂蜜色の髪はそのままだから逆に目立ちそうではある。
対照的なのはイルと名乗るミハエルの従者。彼の羽織る、煌びやかで真っ白なローブマントは、一切の汚れが無い。
「そして今回はユリウス、お前を倒す目的で私は再びこの地へと足を運んだのだ。断じて迷子ではない」
「殿下、兄君と喧嘩して飛び出したという点が抜けておりますが」
「イル、お前は一々細かいな。前回兄上と喧嘩をして飛び出し、武者修行の旅に出たのは本当だ」
「喧嘩の原因は?」
ユリウスが問う。
「兄上が、私のおやつに添えられていた苺を、了承もなしに食べたからだ」
「……」
「謝れば許してやったものを、兄上は謝らず仕舞いだった。そこで私は誓ったのだ、武者修行で強くなって、兄上を打ち負かしてみせると」
(現時点では敵わなかったのですね……)
ティアリーゼは心中で呟く。
黙っていれば知的そうに見える美貌の王子ミハエルは、言葉を発する毎に残念な印象が更新されていった。
「勝手に家出するものだから、国王夫妻や王太后様、王太子殿下にこっ酷く怒られたんですけどね。ちなみにミハイル殿下と喧嘩なさったのは、王太子殿下ではなく第二王子殿下の方です」
「僕は勝負するなんて了承してないけど」
ため息混じり呟くユリウスに、イルが追随する。
「そうですよ殿下、久々の従兄弟君との再会なのですから平和にいきましょう」
(従兄弟……)
確かにソレイユ現国王とその妹であるユリウスの母は兄妹。即ちユリウスとミハエルは従兄弟同士という事実に、ティアリーゼは言われて気が付いた。
だが、従兄弟だからといって引き下がるミハエルではなかった。
「私はユリウスと戦うために、わざわざこのランベールの辺境まで辿り着いたんだ。勝負しなかったらこれまでの苦労が水の泡ではないか」
「苦労か。そうか、色々あったんだな」
「あ、ユリウス殿下、気になります?ミハエル殿下ってばここに来るのに、わざわざ獣道を選んだんですよ。猪に追いかけられた時は笑い転げましたね〜。あ、転げると言っても、私は魔法で身体を浮かせて空にいましたから。地面でバタバタしていたのではありませんよ」
イルはとても楽しそうかつ、饒舌に自分の詳細を語り始める。
身体を浮かせるといった、かなりの魔法の使い手であると伺えるが、浮世離れした外見とは裏腹に陽気すぎる性格にティアリーゼは終始押され気味だった。
(ミハエル殿下は獣道を……だから服がボロボロなのですか……)
「取り敢えず立ち話も何ですから、中へとお入り下さい。例え庭園荒らしだとしても、他国の王族を追い返す訳には参りませんから」
最後に皮肉を忘れないレイヴンによって、ソレイユからやって来た二人は客人として招かれることとなった。
丁度お茶の時間だったこともあり、このまま客人を招いてのお茶会へと移行した。
サロンのテーブルの上には琥珀色のお茶が人数分並び、果物で飾られたタルトなども用意されている。
長椅子にユリウスとティアリーゼが並び、向かいの席にソレイユの二人が腰掛ける。
ユリウスと二人きりのお茶の時間となる筈が、四人に増えただけで随分と賑やかになったと、ティアリーゼは感じていた。
ユリウスはミハエルを前に、かねてからの疑問を口にした。
「また迷子か?」
「違う!前回は武者修行の旅に出ただけで、決して迷子ではないっ」
ミハエルは否定しているが、確かに旅装にしてもかなりボロボロで、あちこち破れたりもしている。
王子様のお忍びの旅だから変装しているのかと、当初ティアリーゼは思っていたが、見事な蜂蜜色の髪はそのままだから逆に目立ちそうではある。
対照的なのはイルと名乗るミハエルの従者。彼の羽織る、煌びやかで真っ白なローブマントは、一切の汚れが無い。
「そして今回はユリウス、お前を倒す目的で私は再びこの地へと足を運んだのだ。断じて迷子ではない」
「殿下、兄君と喧嘩して飛び出したという点が抜けておりますが」
「イル、お前は一々細かいな。前回兄上と喧嘩をして飛び出し、武者修行の旅に出たのは本当だ」
「喧嘩の原因は?」
ユリウスが問う。
「兄上が、私のおやつに添えられていた苺を、了承もなしに食べたからだ」
「……」
「謝れば許してやったものを、兄上は謝らず仕舞いだった。そこで私は誓ったのだ、武者修行で強くなって、兄上を打ち負かしてみせると」
(現時点では敵わなかったのですね……)
ティアリーゼは心中で呟く。
黙っていれば知的そうに見える美貌の王子ミハエルは、言葉を発する毎に残念な印象が更新されていった。
「勝手に家出するものだから、国王夫妻や王太后様、王太子殿下にこっ酷く怒られたんですけどね。ちなみにミハイル殿下と喧嘩なさったのは、王太子殿下ではなく第二王子殿下の方です」
「僕は勝負するなんて了承してないけど」
ため息混じり呟くユリウスに、イルが追随する。
「そうですよ殿下、久々の従兄弟君との再会なのですから平和にいきましょう」
(従兄弟……)
確かにソレイユ現国王とその妹であるユリウスの母は兄妹。即ちユリウスとミハエルは従兄弟同士という事実に、ティアリーゼは言われて気が付いた。
だが、従兄弟だからといって引き下がるミハエルではなかった。
「私はユリウスと戦うために、わざわざこのランベールの辺境まで辿り着いたんだ。勝負しなかったらこれまでの苦労が水の泡ではないか」
「苦労か。そうか、色々あったんだな」
「あ、ユリウス殿下、気になります?ミハエル殿下ってばここに来るのに、わざわざ獣道を選んだんですよ。猪に追いかけられた時は笑い転げましたね〜。あ、転げると言っても、私は魔法で身体を浮かせて空にいましたから。地面でバタバタしていたのではありませんよ」
イルはとても楽しそうかつ、饒舌に自分の詳細を語り始める。
身体を浮かせるといった、かなりの魔法の使い手であると伺えるが、浮世離れした外見とは裏腹に陽気すぎる性格にティアリーゼは終始押され気味だった。
(ミハエル殿下は獣道を……だから服がボロボロなのですか……)