妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
本と妖精さん
次の日の昼下がり、ティアリーゼは私室にてターニャと共に日課である編み物をしていた。
ティアリーゼは手にしていた編みかけの物を、おもむろにテーブルに置くと口を開く。
「書庫に行こうかしら」
「何か気になる本でもございましたか?」
「掃除をしようと思って」
「……掃除、ですか?」
呆気に取られたターニャの丸い目が更に丸くなり、理解が追い付くと慌てて主人を引き留める。
「お、お嬢様がそのようなことをなさらなくてもっ」
「掃除くらい、王都の公爵邸ではよくしていたことよ。それに使用人の数も少ないのだから、自分が頻繁に使う場所くらい感謝の意味も込めて掃除をしたいと思って」
「わ、わたしもお供致しますっ」
制止しても無駄だと悟ったターニャは、せめて手伝うことにした。
箒や雑巾、モップなど掃除用具一式を用意し、書庫へ向かう。
そして二人が掃除を開始して暫くした頃だった。
「何をやっているんだ」
扉が開け放たれる。声の主はミハエルだった。
ティアリーゼは一日一度は訪れる書庫であるが、こうしてミハエルと遭遇するのは初めてだった。
どうして今日に限ってミハエルが現れたのか疑問だったが、ティアリーゼとターニャは一旦掃除の手を止める。
(これがイル様のおっしゃっていた、ミハエル殿下の野性の勘でしょうか……?)
「お掃除をしております」
「掃除……む、どうかしたか?」
公爵令嬢が掃除をしていることに訝しみ、眉を顰めたミハエルだが、二人が自分の真後ろを見ながら呆気に取られている様子に気付く。
「ミハエル殿下の真後ろの本が……」
「ややっ!?何だこの怪しげな本は!」
ミハエルは振り返ると、自分の真後ろにある本棚に並べられた、一冊の光り輝く本が目に飛び込んできた。
「ユリウスが何か隠しているに違いない」
言いながらミハエルは躊躇なく光る本を手にする。「殿下っ、危険かもしれません」とティアリーゼが止めに入ろうとするも、素早くそれを開いた。
本を開いた途端、中から物体が出現し、それは人の形成していた。開いたページの上には、掌の大きさ程度しかない美しい少年が立っていた。
水色の髪、背中には半透明の羽を携えた少年の姿は、妖精としか形容し難い。
閉じられていた瞼が開き、彼の紅玉の瞳が辺りを見渡した。
「妖精さん?」
「有り得ん。いくら小さいとはいえ、この本にどうやって妖精さんが挟まっていたというのだ?一体どのような仕掛けを」
「誰が妖精さんだこの野郎!」
口々に話していると、一喝されてしまった。妖精さんじゃなかったら、一体何だというのだろうか、三人の心の声が一致する。
「思ったより口が悪いな、では悪魔か妖魔か!?取り敢えずターニャとやら、急いでハエ叩きを持ってきてくれないか」
「わっ、わかりました!」
「やめろ!悪魔でもなければ虫でもないわっ」
狼狽しつつもミハエルに従おうとするターニャ。二人のやり取りに、妖精っぽい少年は更に激昂する。
その時、書庫の扉が開かれ、ユリウスが姿を現した。
ティアリーゼは手にしていた編みかけの物を、おもむろにテーブルに置くと口を開く。
「書庫に行こうかしら」
「何か気になる本でもございましたか?」
「掃除をしようと思って」
「……掃除、ですか?」
呆気に取られたターニャの丸い目が更に丸くなり、理解が追い付くと慌てて主人を引き留める。
「お、お嬢様がそのようなことをなさらなくてもっ」
「掃除くらい、王都の公爵邸ではよくしていたことよ。それに使用人の数も少ないのだから、自分が頻繁に使う場所くらい感謝の意味も込めて掃除をしたいと思って」
「わ、わたしもお供致しますっ」
制止しても無駄だと悟ったターニャは、せめて手伝うことにした。
箒や雑巾、モップなど掃除用具一式を用意し、書庫へ向かう。
そして二人が掃除を開始して暫くした頃だった。
「何をやっているんだ」
扉が開け放たれる。声の主はミハエルだった。
ティアリーゼは一日一度は訪れる書庫であるが、こうしてミハエルと遭遇するのは初めてだった。
どうして今日に限ってミハエルが現れたのか疑問だったが、ティアリーゼとターニャは一旦掃除の手を止める。
(これがイル様のおっしゃっていた、ミハエル殿下の野性の勘でしょうか……?)
「お掃除をしております」
「掃除……む、どうかしたか?」
公爵令嬢が掃除をしていることに訝しみ、眉を顰めたミハエルだが、二人が自分の真後ろを見ながら呆気に取られている様子に気付く。
「ミハエル殿下の真後ろの本が……」
「ややっ!?何だこの怪しげな本は!」
ミハエルは振り返ると、自分の真後ろにある本棚に並べられた、一冊の光り輝く本が目に飛び込んできた。
「ユリウスが何か隠しているに違いない」
言いながらミハエルは躊躇なく光る本を手にする。「殿下っ、危険かもしれません」とティアリーゼが止めに入ろうとするも、素早くそれを開いた。
本を開いた途端、中から物体が出現し、それは人の形成していた。開いたページの上には、掌の大きさ程度しかない美しい少年が立っていた。
水色の髪、背中には半透明の羽を携えた少年の姿は、妖精としか形容し難い。
閉じられていた瞼が開き、彼の紅玉の瞳が辺りを見渡した。
「妖精さん?」
「有り得ん。いくら小さいとはいえ、この本にどうやって妖精さんが挟まっていたというのだ?一体どのような仕掛けを」
「誰が妖精さんだこの野郎!」
口々に話していると、一喝されてしまった。妖精さんじゃなかったら、一体何だというのだろうか、三人の心の声が一致する。
「思ったより口が悪いな、では悪魔か妖魔か!?取り敢えずターニャとやら、急いでハエ叩きを持ってきてくれないか」
「わっ、わかりました!」
「やめろ!悪魔でもなければ虫でもないわっ」
狼狽しつつもミハエルに従おうとするターニャ。二人のやり取りに、妖精っぽい少年は更に激昂する。
その時、書庫の扉が開かれ、ユリウスが姿を現した。