妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

父娘

 父と顔を合わせる直前となり、ティアリーゼの心は複雑な思いが込み上げる。
 拒否する訳にもいかず、例え今逃げたとしても、いずれ話し合わねばならないことに変わりは無い。
 それに王都へ来ると決まった時から、父との対面を覚悟をしていた。いずれにしても避けられぬことだと、腹を括るしかない。

 胸中に渦巻く思いに蓋をし、ティアリーゼは父との面会を了承した。

 しばらくして、ティアリーゼが待つ部屋にクルステア公爵がやってきた。

「ティアリーゼ……」
「お父様……お久しぶりです」
「言いたいことは山程あるが、先ずは無事でなによりだ」
「……」


 ティアリーゼの目から見て、久々に会った父は以前より顔に疲れが見て取れ、身体も少し痩せたように感じた。

「何故、黙ってミルディンへ行ってしまったのだ……」
「それは……もうあれ以上、屋敷に身を置くことに耐えかねて……逃げ出してしまいました」
「やはりリタの言っていたことは本当だったのか」
「勝手なことをしてしまい、申し訳ございません。ですがわたしは後悔などしておりません。あの時屋敷を出る決断をして良かったと、心の底から思っております」

 今思えば随分無茶な行動をしたと自覚はあるが、決意したからこそ、一日でも早くユリウスの元へ行くことが出来た。
 そしてミルディンで待っていたのは、抑圧された公爵家とは正反対の日々。
 自分の決断は間違いではなかった。

 扉が叩かれ、王宮の侍従が呼びかけてくる。

「失礼致します、リドリス殿下がお目見えになられました」

 目配せをするとクルステア公爵が頷き、それをティアリーゼは了承と受け取った。

「お通しして下さい」

 室内に通されたのは薄茶の髪にエメラルドの瞳を持つ、中性的で端正な面立ちの王子様。
 確かにリドリスの色を纏っているが、しかし──

(ユリウス様……)

 いくらリドリスと同じ色、同じ顔を持っていても、ティアリーゼには一目でユリウスだと分かる。
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