妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

双子

 薄茶の髪にエメラルドの瞳。中性的な面立ちを象っていた輪郭は痩せ、頬も僅かにこけている。儚さが増し、一目で病的だと思ってしまう程。


「兄上……ティアリーゼっ」

 ティアリーゼを映した途端、病んだ瞳はギラリと剣呑な光を宿した。

「兄上っ、兄上がどうしてここにいらっしゃるのですか!?まさかっ、僕から全てを奪うために……?ティアリーゼも、王位も何もかも、僕から奪うために、王宮へいらしたのですか!?」
「リドリス、落ち着けっ」

 血走った目がティアリーゼを捉える。リドリスの視線から逃れたいのに、ティアリーゼは身体が震えて動くことが叶わない。

「リドリス殿下」

 リドリスの後方から、この場にそぐわぬ落ち着いた男の呼び声が響く。
 途端、リドリスはぴたりと動きを止めた。

「リドリス殿下、ここにいらっしゃいましたか。姿が見えず、心配致しました。さぁ、お部屋へと戻りましょう」

 黒の長衣にフードを被っているため、夜闇に紛れて顔が判別し辛いが比較的若めの男だった。
 取り乱していたリドリスが、途端に落ち着きを取り戻し「分かった」と一言呟く。

 リドリスのあまりの変わりようは不気味だった。

「それでは、私は殿下を送り届けますので失礼致します。クルステア公爵令嬢、そして忌子の王子殿下」

(ユリウス様の正体を知っているの……?)

 硬直するティアリーゼの隣で、ユリウスは動揺を見せることなく口を噤む。

 そんな二人をその場に残し、虚な目をしたリドリスが、長衣を纏う男に連れられて行く。そのまま離宮の方へと向かった背中は、夜闇へと消えていった。

 異様な一連の出来事を間の辺りにし、ティアリーゼは震えながらユリウスの袖を掴んだ。
 そんなティアリーゼをユリウスは優しく抱き寄せる。

「ユリウス様……」
「大丈夫、僕が必ず何とかする」

 呟きはティアリーゼを安心させる言葉でもあり、自分自身への決意のようでもあった。

 ティアリーゼの私室へ戻ると、毛長猫姿のユーノが出迎えてくれた。ユリウスは二日後に狩猟の予定が入ったことをユーノに告げ、抱き締める。


「ごめんよ、ペットは連れていけないんだ、狩られてしまう危険性もあるからね」
「俺はペットじゃねぇ!そして猫を狩る奴なんか悪魔だ!」
「よしよし。僕が守ってやるからな、可愛いアントワネット」
「変な名前付けて抱きしめてくんな!しかも何で女の名前なんだよ!」

 吠えるユーノにユリウスが「そういえば夜会の食事を見繕って来たから、そろそろ届くはずだ」と言えば、ユーノは瞳を輝かせながら大人しくなった。

 暫くするとユーノの元へ、ローストビーフやカナッペを始め、デザートにはタルト、マカロン、ショコラが届けられた。
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