妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
山
── 狩猟当日
ティアリーゼはユリウス、ハイランドの王子レジナルドとその妹王女アルレット、そして護衛達と共に山の中を進んでいた。
深い森に覆われたこの山は、多くの鳥獣の棲家であり、ランベール王族御用達の狩場でもある。
鬱蒼と何処までも広がる木々の葉の間から、陽光の輝きが差し込んでいる。
「見事ですね」
山や森など、自然が好きだというアルレットは楽しげに辺りを見渡す。
ゆっくり歩きながら狩りをしつつ、ランベール産の珍しい花などが咲いている場所を目的地とした。
「はぐれないように気を付けて下さいね」
レジナルドがティアリーゼに笑い掛ける。
まさかそのようなことはないと思うが、万が一山ではぐれてしまったら、ティアリーゼは無事でいられる自信はない。
一行は青の花が咲き誇る、開けた場所へと到達した。
ユリウスとレジナルドが本格的に狩りをしている間、ティアリーゼとアルレットは敷布を敷いて花見を楽しむことにした。
従者達の手によって、焚き火が用意されていく。それをティアリーゼはしばし見守っていたが、ふと視線を上げると茂みの奥に人影があることに気が付いた。
伸びすぎた草が生い茂る奥にいる後ろ姿は、薄茶色の髪──
(リドリス殿下……?)
視線が吸い寄せられ、おもむろに立ち上がる。その姿を確信したティアリーゼは咄嗟に駆け出し、リドリスの背を追った。
「どうして、このような場所に……」
久々に見かけた時から様子のおかしかった彼だが、一人このような深い山を彷徨っているなんて、見過ごせる訳がない。
駆け出していくティアリーゼに、アルレットが声を上げる。
「ティア様!?ティア様どうなさったの!?お兄様っ、リドリス殿下!」
「ティアリーゼ嬢!そちらへ行ってはいけません!」
アルレットの悲鳴に気付いたレジナルドとユリウスが血相を変えて呼び止める。
「ティア!!」
焦燥に駆られたユリウスの声に、ティアリーゼは思わず振り返った。
「え?」
振り返ったその時、不安定な地面に足を滑らせ、躓きそうになる。
後ずさったが急斜面に足元を取られ、ぐら付いた身体を支えようと、ティアリーゼは茂みに腕を伸ばした。
不安定な足場に身体が傾く、茂みで分からなかったが、滑り落ちてゆくその先は崖となっており足場など存在しない。
滑落した身体は宙に投げ出され、ティアリーゼはそのまま真下へと落下していく。
(落ちる……!?)
ティアリーゼを追って駆け出したユリウスが自身も崖へと飛び込み、後方から更なる悲鳴が上がった。
「ティアっ!」
「だ、駄目っユリウス様!」
自分のせいで身を投げた彼に向けて、ティアリーゼは思わず本当の名を叫んだ。
ティアリーゼはユリウス、ハイランドの王子レジナルドとその妹王女アルレット、そして護衛達と共に山の中を進んでいた。
深い森に覆われたこの山は、多くの鳥獣の棲家であり、ランベール王族御用達の狩場でもある。
鬱蒼と何処までも広がる木々の葉の間から、陽光の輝きが差し込んでいる。
「見事ですね」
山や森など、自然が好きだというアルレットは楽しげに辺りを見渡す。
ゆっくり歩きながら狩りをしつつ、ランベール産の珍しい花などが咲いている場所を目的地とした。
「はぐれないように気を付けて下さいね」
レジナルドがティアリーゼに笑い掛ける。
まさかそのようなことはないと思うが、万が一山ではぐれてしまったら、ティアリーゼは無事でいられる自信はない。
一行は青の花が咲き誇る、開けた場所へと到達した。
ユリウスとレジナルドが本格的に狩りをしている間、ティアリーゼとアルレットは敷布を敷いて花見を楽しむことにした。
従者達の手によって、焚き火が用意されていく。それをティアリーゼはしばし見守っていたが、ふと視線を上げると茂みの奥に人影があることに気が付いた。
伸びすぎた草が生い茂る奥にいる後ろ姿は、薄茶色の髪──
(リドリス殿下……?)
視線が吸い寄せられ、おもむろに立ち上がる。その姿を確信したティアリーゼは咄嗟に駆け出し、リドリスの背を追った。
「どうして、このような場所に……」
久々に見かけた時から様子のおかしかった彼だが、一人このような深い山を彷徨っているなんて、見過ごせる訳がない。
駆け出していくティアリーゼに、アルレットが声を上げる。
「ティア様!?ティア様どうなさったの!?お兄様っ、リドリス殿下!」
「ティアリーゼ嬢!そちらへ行ってはいけません!」
アルレットの悲鳴に気付いたレジナルドとユリウスが血相を変えて呼び止める。
「ティア!!」
焦燥に駆られたユリウスの声に、ティアリーゼは思わず振り返った。
「え?」
振り返ったその時、不安定な地面に足を滑らせ、躓きそうになる。
後ずさったが急斜面に足元を取られ、ぐら付いた身体を支えようと、ティアリーゼは茂みに腕を伸ばした。
不安定な足場に身体が傾く、茂みで分からなかったが、滑り落ちてゆくその先は崖となっており足場など存在しない。
滑落した身体は宙に投げ出され、ティアリーゼはそのまま真下へと落下していく。
(落ちる……!?)
ティアリーゼを追って駆け出したユリウスが自身も崖へと飛び込み、後方から更なる悲鳴が上がった。
「ティアっ!」
「だ、駄目っユリウス様!」
自分のせいで身を投げた彼に向けて、ティアリーゼは思わず本当の名を叫んだ。