妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
謁見の間
「こやつは……」
魔法使いの姿を確認した途端、ランベール王の動揺は明らかだった。
「何故こやつがここに!?」
「これがリドリスと共にいた魔法使いの正体です」
「私はまた……」
「つい先程、その魔法使いにティアリーゼが襲われました。
この者はエルニアの魔法使いです、狙いはリドリスを傀儡にすること。
ランベールを憎む彼は、今まで全てエルニアのために暗躍していました」
「エルニアの……」
「十六年前、何があったのかお教え願えますか?ここにいる者達は僕が何者か、既に把握しております」
茫然自失気味のランベール王にユリウスは問い、更に続ける。
「以前ソレイユのミハエル王子とイル卿が偶然ミルディンを訪ねて来られたことがありました。その時が初対面だったにも関わらず、仮面を付けた状態の僕を一目見て、お二人に正体を見破られました。そして事情をお話すると、ソレイユ側も力を貸して下さると約束して下さいました」
王家の忌子を隠し、長年嘘を付き続けてきた相手国、ソレイユに真実が露呈している。
しかしユリウスが自ら出自を話したのではない。偶然訪ねて来た、魔法大国と名高いソレイユの二人には、ユリウスの正体は明らかだったようだ。
多少の溜飲が下がったのか、王は僅かに愁眉を開いた。
必然の様な出来事を聞かされ、ついにランベール王は決意を固め、語り始める。
「かつて宮廷魔法使いだった頃の、こやつの名はサイファー。
王妃と産まれたばかりのユリウスとリドリスを襲った張本人である。そしてその事件は王妃が亡くなった直接の原因……」
サイファーは魔法で容姿を変え、更に名前、年齢を偽り、別人になりすまして宮廷に戻って来た。そして現在はリドリスに仕えている。
王曰く、彼が祈祷するとリドリスの容態は、幾分か和らぐのだという。
照合すると、少なくともサイファーは十六年以上前から計画を立てていたのは明白である。
謁見の間にいる一同は、サイファーの執念を目の当たりにし、ランベールへの恨みの深さを痛感していた。
ランベール王は深く息を吐く。
自身の妻を死に追いやった者を、再び王宮へ招き入れてしまった事実と向き合うのは、容易では無い。
ユリウスが真っ直ぐに自身の父を見据えて、口を開く。
「近年のリドリスの体調不良は、十六年前この者に掛けられた呪いによるものと思われます」
「呪い……」
ランベール王が言葉に窮し、ミハエルがユリウスに問う。
「襲撃事件の際は、リドリス王子のみが呪いをかけられたのか?」
「ユリウス殿下の方はどうなのですか?私の目から見て、殿下は特に呪われているようにお見受け致しませんが」
ミハエルに続いて、イルがすかさず質問を繰り出した。
「いや僕は」
「やはり精霊の愛し子であるユリウス殿下には、呪いが効かなかったのですね」
ユリウスは肯首した。
確かにサイファーはユリウスに呪いを掛けようとした、だが効果は現れなかったようだ。
「丁度ユリウス殿下がお産まれになられる頃に、ソレイユ王家から精霊の愛し子が誕生する時期だったのです。ですが何故か見つかりませんでした。そこで浮上したのが、ランベールに輿入れした姫君が産んだ子が、愛し子である可能性です。
初めてお会いした時、レイヴンが側にいたからこそ、すぐに貴方が何者かが分かりました。彼のような高位精霊を従えることが出来るのは、精霊の愛し子に他ならない。つまりソレイユ王家の血を引く、ランベールの隠されたもう一人の王子だと推察出来たのです」
ソレイユ王がもう一人、王子か王女は産まれていないかと尋ねた経緯は、イルの言葉通りである。イルが確認するように言葉を紡ぐ。
「呪われていたのは忌子の第一王子ユリウス殿下ではなく、第二王子リドリス殿下の方だったという訳ですね」
「リドリスが呪われていると言っても、先天的なものではなく、産まれた直後に掛けられてしまっただけだけどね」
「では元々ランベールの双子の王子は、どちらも忌子ではなかったと」
ユリウスとイルのやり取りを、ランベール王はただ黙って聞いていた。
精霊はこの世界に存在する魔法の源とされている。
そして精霊の愛し子とは、精霊から祝福と加護を授かりし存在。そして高位精霊とさえも対話し、時に契約して彼らの大いなる力を借りることが出来る。
長年忌子として王都から遠ざけていた自身の息子、ユリウスは呪いさえも跳ね除ける、精霊の愛し子と呼ばれる、祝福を受けてこの世に生まれ落ちた存在だった。
魔法使いの姿を確認した途端、ランベール王の動揺は明らかだった。
「何故こやつがここに!?」
「これがリドリスと共にいた魔法使いの正体です」
「私はまた……」
「つい先程、その魔法使いにティアリーゼが襲われました。
この者はエルニアの魔法使いです、狙いはリドリスを傀儡にすること。
ランベールを憎む彼は、今まで全てエルニアのために暗躍していました」
「エルニアの……」
「十六年前、何があったのかお教え願えますか?ここにいる者達は僕が何者か、既に把握しております」
茫然自失気味のランベール王にユリウスは問い、更に続ける。
「以前ソレイユのミハエル王子とイル卿が偶然ミルディンを訪ねて来られたことがありました。その時が初対面だったにも関わらず、仮面を付けた状態の僕を一目見て、お二人に正体を見破られました。そして事情をお話すると、ソレイユ側も力を貸して下さると約束して下さいました」
王家の忌子を隠し、長年嘘を付き続けてきた相手国、ソレイユに真実が露呈している。
しかしユリウスが自ら出自を話したのではない。偶然訪ねて来た、魔法大国と名高いソレイユの二人には、ユリウスの正体は明らかだったようだ。
多少の溜飲が下がったのか、王は僅かに愁眉を開いた。
必然の様な出来事を聞かされ、ついにランベール王は決意を固め、語り始める。
「かつて宮廷魔法使いだった頃の、こやつの名はサイファー。
王妃と産まれたばかりのユリウスとリドリスを襲った張本人である。そしてその事件は王妃が亡くなった直接の原因……」
サイファーは魔法で容姿を変え、更に名前、年齢を偽り、別人になりすまして宮廷に戻って来た。そして現在はリドリスに仕えている。
王曰く、彼が祈祷するとリドリスの容態は、幾分か和らぐのだという。
照合すると、少なくともサイファーは十六年以上前から計画を立てていたのは明白である。
謁見の間にいる一同は、サイファーの執念を目の当たりにし、ランベールへの恨みの深さを痛感していた。
ランベール王は深く息を吐く。
自身の妻を死に追いやった者を、再び王宮へ招き入れてしまった事実と向き合うのは、容易では無い。
ユリウスが真っ直ぐに自身の父を見据えて、口を開く。
「近年のリドリスの体調不良は、十六年前この者に掛けられた呪いによるものと思われます」
「呪い……」
ランベール王が言葉に窮し、ミハエルがユリウスに問う。
「襲撃事件の際は、リドリス王子のみが呪いをかけられたのか?」
「ユリウス殿下の方はどうなのですか?私の目から見て、殿下は特に呪われているようにお見受け致しませんが」
ミハエルに続いて、イルがすかさず質問を繰り出した。
「いや僕は」
「やはり精霊の愛し子であるユリウス殿下には、呪いが効かなかったのですね」
ユリウスは肯首した。
確かにサイファーはユリウスに呪いを掛けようとした、だが効果は現れなかったようだ。
「丁度ユリウス殿下がお産まれになられる頃に、ソレイユ王家から精霊の愛し子が誕生する時期だったのです。ですが何故か見つかりませんでした。そこで浮上したのが、ランベールに輿入れした姫君が産んだ子が、愛し子である可能性です。
初めてお会いした時、レイヴンが側にいたからこそ、すぐに貴方が何者かが分かりました。彼のような高位精霊を従えることが出来るのは、精霊の愛し子に他ならない。つまりソレイユ王家の血を引く、ランベールの隠されたもう一人の王子だと推察出来たのです」
ソレイユ王がもう一人、王子か王女は産まれていないかと尋ねた経緯は、イルの言葉通りである。イルが確認するように言葉を紡ぐ。
「呪われていたのは忌子の第一王子ユリウス殿下ではなく、第二王子リドリス殿下の方だったという訳ですね」
「リドリスが呪われていると言っても、先天的なものではなく、産まれた直後に掛けられてしまっただけだけどね」
「では元々ランベールの双子の王子は、どちらも忌子ではなかったと」
ユリウスとイルのやり取りを、ランベール王はただ黙って聞いていた。
精霊はこの世界に存在する魔法の源とされている。
そして精霊の愛し子とは、精霊から祝福と加護を授かりし存在。そして高位精霊とさえも対話し、時に契約して彼らの大いなる力を借りることが出来る。
長年忌子として王都から遠ざけていた自身の息子、ユリウスは呪いさえも跳ね除ける、精霊の愛し子と呼ばれる、祝福を受けてこの世に生まれ落ちた存在だった。