妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ
話し合い
マリータについて──彼女は現在拘束されており、取り調べの最中となっている。
マリータ本人は故意ではないと否定しているが、生まれたばかりのリドリスに掛けられた呪いを発動させるため、魔法を使用した張本人である。
リドリスに掛けられていた呪いは元々緩やかに精神に作用していたが、それを急激に加速させたのがハンカチに用いられていた魔法陣だ。
その魔法陣はマリータが自身の魔力を込めて刺繍したものであり、母から教わった「おまじない」を行っただけと主張している。
自覚の有無に関わらず、リドリスの精神を蝕んだことに変わりない。
そして事件とは別に、マリータは王子妃としての適性はないと判断されている。
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ランベール国王を前に、ティアリーゼの婚約について話し合いがなされた。
この場にはティアリーゼ以外にユリウス、クルステア公爵、そして容態が回復しつつあるリドリスが話し合いの席に着いている。
リドリスが澱み無く心情を言葉にする。
「僕は幼馴染として、ティアリーゼに親愛を抱いており、結婚した暁には戦友のように手を取り合いたいと思っておりました」
ティアリーゼもずっと同じ思いを抱いていた。
ユリウスに向けるような恋心とは違っていたが、友人として、婚約者として彼を支えていきたいと思っていた。
何よりリドリスに嫌われていなかったことに安堵し、ティアリーゼはほっと胸を撫で下ろした。
「しかし兄上とティアリーゼが思い合っているのであれば、僕は潔く身を引こうと思っています。
それに兄上が立太子し、ティアリーゼが王太子妃となれば丸く治ります。
僕より兄上の方が全てにおいて秀でていらっしゃる。魔法の知識や才能も、このランベールに不可欠であり、大いに貢献して下さるでしょう。兄上が王位を継ぐべきです」
「何を言っている。僕は魔法とミルディンの土壌の研究に勤しんでいただけで、王位など考えたことはない。幼少期から王宮で暮らし、帝王学を学んできたリドリスこそ、王位に相応しい」
「しかし……」
ユリウスの反駁に、リドリスは言葉を詰まらせる。
「王位に就かずとも、国に貢献出来るよう努力する。むしろミルディンにいた方が、王都で公務をこなすより、魔法研究に時間を費やせるのは明白だ。
これからも国や大切な物を守るため、陰で支えていけたらと思っているよ」
「なら、ティアリーゼのことはどう思っていらっしゃるのですか?」
「ティアリーゼのことは、子供の頃に会った時からずっと好きだった」
「でしたら……!」
説得しようと躍起になりかけたリドリスの代わりに、ランベール王が発言する。
「ティアリーゼは?」
「わたしは……」
「今まで王家の都合で振り回してすまなかった。立場や責任を抜きに、まずはティアリーゼの意見を述べてくれ」
その場の全員から視線が注がれ、ティアリーゼは緊張の面持ちで言葉を紡ぐ。
「ユリウス様と、共にありたいと思っているのが本音です。献身的な領主としてのお姿を身近で拝見し、ミルディンに対する思いもとても伝わってきました。
そんなユリウス様に微力ながら、お力添えをさせて頂けたらと……」
ティアリーゼの思いを聞き、リドリスは再び口を開く。
「僕はこのまま王位に就くのであれば、国のための結婚をする覚悟は出来ております。しかし兄上の方が王位に相応しく、僕を忌子として入れ替えた方が……」
「忌子などの風習は撤廃する」
言い掛けたリドリスの言葉を王が遮った。
「ユリウスの存在も公表し、全てを公にするつもりだ。これまでのことは、風習に囚われてしまった私の弱さが招いた結果だ」
現王が特段愚王だった訳ではなく、忌子は長きに渡り王家に根付いていた風習であり、その歴史を覆すことは困難だっただろう。
自身の妃さえ生きていれば、忌子など馬鹿馬鹿しいと一蹴してくれたに違いないと、ランベール王は幾度も苦悶していた。
しかし今回の一件で、ようやくランベール王は風習を捨てる勇気を持てたのだった。
「クルステア卿は何か意見はあるか?ティアリーゼの希望のまま話を進めると、ユリウスと正式に婚約することとなるが」
「異論はございません……ティアリーゼの希望を一番に叶えてやりたいと思っております。
ティアリーゼの幸せに繋がるのであれば、尚のこと……」
仕事を言い訳に、自身の家庭や屋敷の現状を把握できていなかった公爵は全て、自分が蒔いた種だと認めている。
そして、リドリスへ掛けられていた呪いについて──
ユーノの協力のもと、新たに判明した事実がいくつかある。
この呪いはエルニア民族の血を宿す女性のみが、発動させることの出来る呪術である。
クルステア公爵の妻ミランダは元々男爵家の令嬢であり、母親はエルニア民族の血筋である。つまりミランダとマリータには、エルニアの血が流れている。
そしてマリータに流れるエルニアの血を利用し、魔法陣を用いて魔法を発動させた。
下級貴族出身のミランダは公爵夫人として社交に重きを置いていた。夜会以外にも幾つかのサロンに出入りし、そこで近づいて来た男に「おまじない」と称して刺繍の呪いを教わったのだという。
その男こそサイファーのもう一つの顔──
彼は魔法で姿を変え、いくつもの顔を持ち、徐々にリドリスとその周辺を狂わせていった。
マリータ本人は故意ではないと否定しているが、生まれたばかりのリドリスに掛けられた呪いを発動させるため、魔法を使用した張本人である。
リドリスに掛けられていた呪いは元々緩やかに精神に作用していたが、それを急激に加速させたのがハンカチに用いられていた魔法陣だ。
その魔法陣はマリータが自身の魔力を込めて刺繍したものであり、母から教わった「おまじない」を行っただけと主張している。
自覚の有無に関わらず、リドリスの精神を蝕んだことに変わりない。
そして事件とは別に、マリータは王子妃としての適性はないと判断されている。
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ランベール国王を前に、ティアリーゼの婚約について話し合いがなされた。
この場にはティアリーゼ以外にユリウス、クルステア公爵、そして容態が回復しつつあるリドリスが話し合いの席に着いている。
リドリスが澱み無く心情を言葉にする。
「僕は幼馴染として、ティアリーゼに親愛を抱いており、結婚した暁には戦友のように手を取り合いたいと思っておりました」
ティアリーゼもずっと同じ思いを抱いていた。
ユリウスに向けるような恋心とは違っていたが、友人として、婚約者として彼を支えていきたいと思っていた。
何よりリドリスに嫌われていなかったことに安堵し、ティアリーゼはほっと胸を撫で下ろした。
「しかし兄上とティアリーゼが思い合っているのであれば、僕は潔く身を引こうと思っています。
それに兄上が立太子し、ティアリーゼが王太子妃となれば丸く治ります。
僕より兄上の方が全てにおいて秀でていらっしゃる。魔法の知識や才能も、このランベールに不可欠であり、大いに貢献して下さるでしょう。兄上が王位を継ぐべきです」
「何を言っている。僕は魔法とミルディンの土壌の研究に勤しんでいただけで、王位など考えたことはない。幼少期から王宮で暮らし、帝王学を学んできたリドリスこそ、王位に相応しい」
「しかし……」
ユリウスの反駁に、リドリスは言葉を詰まらせる。
「王位に就かずとも、国に貢献出来るよう努力する。むしろミルディンにいた方が、王都で公務をこなすより、魔法研究に時間を費やせるのは明白だ。
これからも国や大切な物を守るため、陰で支えていけたらと思っているよ」
「なら、ティアリーゼのことはどう思っていらっしゃるのですか?」
「ティアリーゼのことは、子供の頃に会った時からずっと好きだった」
「でしたら……!」
説得しようと躍起になりかけたリドリスの代わりに、ランベール王が発言する。
「ティアリーゼは?」
「わたしは……」
「今まで王家の都合で振り回してすまなかった。立場や責任を抜きに、まずはティアリーゼの意見を述べてくれ」
その場の全員から視線が注がれ、ティアリーゼは緊張の面持ちで言葉を紡ぐ。
「ユリウス様と、共にありたいと思っているのが本音です。献身的な領主としてのお姿を身近で拝見し、ミルディンに対する思いもとても伝わってきました。
そんなユリウス様に微力ながら、お力添えをさせて頂けたらと……」
ティアリーゼの思いを聞き、リドリスは再び口を開く。
「僕はこのまま王位に就くのであれば、国のための結婚をする覚悟は出来ております。しかし兄上の方が王位に相応しく、僕を忌子として入れ替えた方が……」
「忌子などの風習は撤廃する」
言い掛けたリドリスの言葉を王が遮った。
「ユリウスの存在も公表し、全てを公にするつもりだ。これまでのことは、風習に囚われてしまった私の弱さが招いた結果だ」
現王が特段愚王だった訳ではなく、忌子は長きに渡り王家に根付いていた風習であり、その歴史を覆すことは困難だっただろう。
自身の妃さえ生きていれば、忌子など馬鹿馬鹿しいと一蹴してくれたに違いないと、ランベール王は幾度も苦悶していた。
しかし今回の一件で、ようやくランベール王は風習を捨てる勇気を持てたのだった。
「クルステア卿は何か意見はあるか?ティアリーゼの希望のまま話を進めると、ユリウスと正式に婚約することとなるが」
「異論はございません……ティアリーゼの希望を一番に叶えてやりたいと思っております。
ティアリーゼの幸せに繋がるのであれば、尚のこと……」
仕事を言い訳に、自身の家庭や屋敷の現状を把握できていなかった公爵は全て、自分が蒔いた種だと認めている。
そして、リドリスへ掛けられていた呪いについて──
ユーノの協力のもと、新たに判明した事実がいくつかある。
この呪いはエルニア民族の血を宿す女性のみが、発動させることの出来る呪術である。
クルステア公爵の妻ミランダは元々男爵家の令嬢であり、母親はエルニア民族の血筋である。つまりミランダとマリータには、エルニアの血が流れている。
そしてマリータに流れるエルニアの血を利用し、魔法陣を用いて魔法を発動させた。
下級貴族出身のミランダは公爵夫人として社交に重きを置いていた。夜会以外にも幾つかのサロンに出入りし、そこで近づいて来た男に「おまじない」と称して刺繍の呪いを教わったのだという。
その男こそサイファーのもう一つの顔──
彼は魔法で姿を変え、いくつもの顔を持ち、徐々にリドリスとその周辺を狂わせていった。