喫茶”diary”
 「お好きな席へどうぞ」
 と、喫茶店のママさん?がドアを開けたのとは反対の手で店内を指した。俺は店の中へ入って佇んだ。
 「あら、随分濡れてるのね。ちょっと待ってて」
 と、喫茶店のママさん?はカウンターの向こうへ消えると、白いタオルを手に戻って来た。バスタオルだ。
 「はい、これで拭いて」
 と差し出した。
 「ありがとうございます。助かります。濡れたままだと椅子が濡れちゃいますね」
 と俺が言うと、
 「そうね」
 と、喫茶店のママさん?は笑った。
 幸い椅子の座面はビニールレザー張り。帰る時に拭けば良い。奥にはソファ席もある。ソファは布張りだ。そっちには座れないな。
 「何にされますか」
 水とおしぼりを持って来たママさん?が訊く。
 「あ、えーっと、コーヒーを」
 メニューを見ずに反射的にそう答えたが、ここは昔は豆の種類を選べたはず。
 「マンデリンで」
 と付け加えると、はい、と頬笑んでカウンターの向こうに戻り、すぐに左端のサイフォンに水と挽き豆を入れた。
 昔と同じ、サイフォンが5基並んでる。
 ふと、大学時代の記憶が蘇る。
< 2 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop