悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜

 馬車での旅は三日目にしてようやく王都に入った。王都は多くの人々が行き交い、活気があった。メリアンにとっては懐かしい光景だったが、子供たちには初めての光景で、馬車の窓から覗き込む二人は興奮気味だった。

「こーんなにいっぱいのひとをみたの、はじめて!」
「みてみて、あのおうち、すっごーくおおきい!」

 子供たちは歓声を上げ、あれや、これや、と指をさして楽しんでいた。

 次第に王宮へと続く大きな門が現れ、ゆっくりと開かれた。手入れの行き届いた美しい庭園が広がり、その中心には白い大理石で建てられた宮殿が聳え立つ。宮殿の周りには、近衛兵が守備についており、厳戒態勢が整えられていた。

 馬車が宮殿の正面に留まると、派手な出迎えがあった。多くの家臣たちが集まり、フェルディナンド王子を迎えるために立ち並んでいた。

 王子が馬車から降りると、彼らは深々と頭を下げた。

「フェルディナンド殿下、お帰りなさいませ。」
「ああ。」

 そして彼らは揃って顔を上げると、フェルディナンド王子が自ら馬車から降ろした小さな双子に目を奪われた。銀色の髪と青い瞳、それだけですべてを察したようだった。

「殿下、どうかお二人の名を。」

 王子の側近である、背が低く白髪で年老いたモーリスが、皆を代表し、訊ねた。すると、王子は誇らしそうに、「ルカとリリスだ。」と答えた。するとモーリスはルカ、リリスの手を一人ずつ取り、握りしめた。

「ルカ様、リリス様、私はフェルディナンド殿下に仕えておりますモーリスと申します。」

 ルカもリリスも二人ともキョトンという顔をした。今まで自分たちのことに無関心な五十人ほどの村に住み、多くの人に出会ったことの無かった二人にとって、この数日間だけで、何十人もの大人に出会い、最初は怖かったが、それ以来彼らから敬意をもって接せられて、それが普通なのか、そうでないのか、・・・何を意味するのかなど何も分かっていない様子だ。メリアンもあえて説明しなかった。実際この後自分も子供もどのような扱いを受けるかも分からなかったのだ。

 モーリスは更にそのあと馬車から降りたメリアンにも深々とお辞儀をした。

「メリアン様も、ご無事で何よりです。」

 モーリスは、フェルディナンド王子が幼いころからずっと王子の教育係兼側近として傍にいたのでメリアンももちろん知っていた。モーリスの王子に対する忠誠心は絶対でありながらも、常に王子の周りをうろちょろしていて、でも相手をしてもらえないメリアンに対し、優しく励ましてくれたことがあった。王子とエレオノーラの恋路の邪魔の数々を見て見ぬふりをしてくれたことも。メリアンにとって自分の黒歴史をすべて知るモーリスとの再会は気恥ずかしさがあった。

「モーリス様もお変わりなく。」

 メリアンは、深く礼をした。

 「ここが、私の住まいだ。」

 フェルディナンド王子は誇らしげに子供たちに言い、子供たちを先頭に宮殿の中を案内した。

「これがおうちなの!?」
「わー・・・」

 子供たちは、あまりにも大きな『家』にただただびっくりしていた。

 メリアンは、中にどんどんと進む三人の後ろに続く。宮殿に入った瞬間、懐かしい薔薇の香りに包まれた。高い天井や華麗な装飾、豪華な調度品など、全てが昔と変わらず美しい。広々とした廊下を進むと、たくさんの使用人たちが慌ただしく動き回っている。

 フェルディナンド王子はそのまま、宮殿の中央にある中庭まで進んだ。そこには青い芝生が広がっている。色鮮やかな花々も咲き、高い木々は立派に立っていた。ふとメリアンの目に入ったのは、大きな白い花をたくさん咲かせたマグノリアの木だった。

(懐かしい・・・)

 この中庭はメリアンが王子と初めて出会った場所だ。

< 11 / 56 >

この作品をシェア

pagetop