悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜

 メリアンにとってそんな思い出が詰まった中庭をルカとリリスは駆けまわっている。なんとも不思議な気分だ。そして近くで王子も目を離すことなく二人を見守っている。

 この数日間で王子と子供たちは随分と打ち解けたようだが、メリアンと王子には緊張感が残っていた。
 会話という会話は何一つしていない。メリアンは、子供たちの楽しそうな様子を見て、ほっとしている一方、自分は今後どうなるのかは気がかりだった。ここで、審判にかけられ、やはり皆の前で打ち首になるのだろうか。

 そんな悲観に浸っていると王子がメリアンに珍しく声をかけた。

「みな、長旅で疲れただろう。部屋に案内しよう。」

 そうして三人は王子の部屋の近くの部屋に案内された。扉を開くと、メリアンが昔香水でつけていたほど好きなイランイランの甘い香りが漂っていた。部屋は広く、天井は高い。窓からは先ほどの中庭が見える。壁には美しいタペストリーや絵画が飾られ、家具は全て手の込んだ細工が施されている。天蓋付きの大きな寝台には、シルクの寝具が敷かれていた。その隣には、急遽用意されたように不揃いの小さな寝台が二つ並んでいる。

 王子はメリアンに「しばらくはこの部屋に滞在してもらうことになる。不自由はさせぬ。何か必要なものがあったら、モーリスやメイドたちに言ってくれ。」と言い残し、部屋を出た。そして入れ替わるように三人の若いメイドたちが入ってきた。その中でメリアンが知っている者はいなかった。

 三人は色とりどりのドレスやら、子供服やらが大量にかかったラックを部屋に運んだ。
 動きやすさと、過ごしやすさを重視していた質素な服は、あっというまに煌びやかなドレスに替わり、子供たちも襟のついた立派な服を着せられた。けれど、二人はそんなことはお構いなしにと、広々とした部屋で、駆け回っている。子供の体力は無限だ。

 メリアンは鏡の前に立ち自分の姿を見た。

(こんなドレスを着るなんて久しぶりだわ。胸だけは少しきついけれど、サイズはぴったり。)

 この六年間、子供たち中心で、自分の容姿や服装などは全く気にすることなく過ごしてきたので、久しぶりに着飾っている自分をみるのは少々照れくさい。淡いピンク色のドレスは、襟元には小さな花が散りばめられ、スカートにはフリルがたくさんついている。少しでも王子にかわいいと思われたくて、毎回ドレス選びには気を使っていた以前のメリアンの趣味そのものだ。まるで当時の自分のクローゼットの中のようなドレスばかりが用意されていて、どれも可愛くて、選ぶのに一苦労した。
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