悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜
 メリアンには前世の記憶がある。

 早川弥生、それが前世での名前だ。中小企業のサラリーマン家庭に生まれ、不自由なく育てられ、大学では薬学を学び、薬剤師として普通に働いていた。五歳年上の薬品会社の社員と二十六歳の時に職場で出会い、二十七歳で結婚をした。

 結婚後はすぐに子供を作り、自分たちの手でしっかりと育てたい、と言う二人の意見が一致し、弥生は薬剤師を辞め、専業主婦になった。

 二十代だし、すぐ子供は出来るだろう。

 そう思っていたが、その願いは、不妊症によって打ち砕かれた。三年間の妊活はうまくいかず、弥生は三十歳の若さで、不妊治療を受けることになった。けれど期待するような結果はなかなか出ない。治療は長期化し、精神的にも金銭的にも追い詰められる日々が続いた。

 夫は最初こそ、彼女を慰め、支えてくれていたが、次第にその態度は変わっていき、あまり協力的ではなくなっていった。弥生にとって、とても辛い時期だった。現実逃避をしたくて乙女ゲームにはまった時期でもあった。そのことについても「お前は気楽でいいよな。」と仕事後の夫から責められることもあった。
 気づくと弥生は三十三歳になっていた。周りの結婚、出産ラッシュが余計彼女にプレッシャーを与えた。

 そんな時突然夫から衝撃的なことを告げられる。

 3カ月前に知り合った女性を好きになり、その相手と関係を持ち、妊娠をした彼女と結婚するために、弥生とは離婚したい、と。

 つい先日、弥生ともしたのに?

 そう問い詰めると「別に、男は好きじゃなくてもヤれるんだよ。」と最後に言い捨てられた。好きではないのは、三ヶ月前に会ったばかりの女ではなく、弥生だということを告げられショックだったが、それ以上に夫が他の女性と簡単に子供を授かったことで、自分が女として欠陥品だということを突き付けられ、それが何よりも弥生を苦しめた。

 夫が家から出ていき、悲しみや孤独感に苛まれる日々。長期間の妊活の結果が得られなかったことで、既に自分に対する自信を失っていた弥生は、夫に裏切られたことで、誰も信じることができなくなった。長年のブランクでつける職もなく、ただ憂鬱に過ごす日々が続く。不妊治療で崩していた独身時代にためていた預金も底が見え始める。ついに弥生は生きる力も、意味を失い、この世から消え去ることを決意する。

 人々を救いたいと得た薬の知識を自分の命を絶つために使うことに最後まで躊躇したけれど、もう苦しみたくない、もう自分を責めたくない、そんな思いが勝ってしまった。

 そして致死量の薬を飲んで、弥生は人生の幕を下ろしたのだった。

 ・・・しかし、その幕は時空が変わり再び上がることになる。
 弥生は生まれ変わった、乙女ゲーム『ミスティック・ロイヤル』の悪役令嬢メリアンとして。
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