悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜
 アンデの森での充実した時間が終わり、メリアンたちは家に帰ることにした。しかし帰り道、いつもとはどこか違うような、不穏な空気が漂っているのを感じた。耳を澄ますと、ずしずしずし、と複数の駆ける足音が聞こえる。

(珍しいわ。)

 この森は普段、人の気配は皆無だ。

 メリアンは子供たちをさっと自分の懐に抱きしめ、周りを見回した。足音はだんだん大きくなっていく。不安を感じながら、二人には声を出さないようにと、「しー。」と口元を人差し指で触れた。

 すると二人は、母親の言葉に素直にうなずく。

 そのうち足音だけではなく、声も届くようになり、多数の人間がすぐ傍にいることが分かると、メリアンはより警戒心を強め、子供たちと一緒に息をひそめながら茂みの中に隠れた。

 草むらをかき分ける音がすぐそばまで近づく。心臓が高鳴る中、その者たちの様子をそっと窺う。鎧を身にまとった騎士が複数。王家の色である藍色マントを背負い、何かを探しているように森の中を見回していた。

(王族直属の兵?もしかして・・・)

 メリアンは、彼らが自分を探しているのではないかと不安になり、更に身を屈めた。
 しばらくすると足音が遠ざかっていくのが分かり、メリアンは子供たちに「もう大丈夫そう。」と伝え、立ち上がり、三人は、帰路を急いだ。
 しかし、三人が家の前に辿り着くと、鍵を閉めていたはずの扉は全開で、中からはガチャガチャと大きな音がした。

「ここで待ってて。分かった?」

 メリアンは、子供たちを大きな木の陰に隠し、先に家に入って確認してみることに。

(なにがなんでも私が子供たちを守らなければ)

 家に入ると、扉と言う扉はすべて開かれ、先ほど森にいた騎士と同じ装いの騎士たちが侵入していた。メリアンは咄嗟に火魔法で、彼らを撃退しようとした。手に火の玉を籠め、それを後ろを向いてカーテンの裏を探っている騎士めがけぶつけようとした。

 すると「メリアン様、おやめください。」と背後から名前を呼ばれ、メリアンは驚いて振り返った。なんと、見知った顔が目に飛び込んできた。

 「エリオット・・・なぜ。」

 それはフェルディナンド王子に仕えていた第二王子付き騎士団の団長だった。
 彼は基本、フェルディナンド王子がどこへ行くにも付いて護衛をすることが多い。

 ということは、フェルディナンド王子もこの近くに・・・

 メリアンは嫌な予感がして急いで外に出る。すると泣いているリリスを背中に乗せ不安定そうに歩くルカが玄関の前にいた。なかなか戻ってこないメリアンを心配したのだ。そしてまだ五歳ながら勇敢なルカは「おかあさんはぼくがまもるんだ!」と言い、水の精霊を呼び、メリアンの傍で構えていた騎士団長を攻撃しようとした。

 そのとたんルカの後ろに、ある人物が現れ、ルカの小さな魔法は彼の強大な魔力に潰されるように消された。
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