悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜
「魔力のコントロールがまったくなっていないじゃないか。」
その人は、光沢のある銀の鎧を身に纏い、王家の紋章が金糸で刺繍された藍色のマントを背負っている。春風に靡く銀色髪は陽の光を浴びて、輝きを放っていた。
メリアンがこの世で一番恋焦がれ、けれど一番会いたくなかった人だ。
「フェルディナンド殿下・・・」
ついその名前を口にしてしまう。
あれからもう六年も経っているのに、端正な顔立ちも佇まいも、何も変わらない。もはやその美しさや威厳は年齢を重ね、ますます増したようにさえ感じる。
フェルディナンド王子は王族らしく優雅に手を振り、騎士たちに合図を送った。すると、彼らは一斉に引き下がり、彼の後ろに控えた。
「殿下・・・なぜこちらに・・・」
「・・・お前を探していた。お前が消えたあの日からずっと。」
こんな日がいつか来てしまうかもしれない、と何度も思った。
愛する子供たちと暮らす幸せな日々の中、常にそんな不安を抱え生きてきた。そして、ついに起きてしまった現実に、メリアンは膝を折り泣き崩れた。
たとえあの時、名義上は婚約者だったとは言え、一国の王子にあんな無礼を働いたことは、メリアンがどんなに遠くへ行こうと、どんなに時間が経とうと、許されるわけもないのだ。分かっていたことだが、あわよくば、どうか忘れて欲しいと思っていた。
(けれど、あの日から六年もの間私を探し続け、こんな辺鄙な村にまできて、探し出したなんて・・・そうとうお怒りなんだわ・・・)
メリアンは王子の執念を感じ、覚悟を決めた。
短い幸せだった。けれど最高の幸せだった。
メリアンは不安そうにする子供たちの顔を眺めた。二人はたくさんの大人に囲まれて、声が出ないほど怯えている。
ごめんなさい、こんなことになってしまって。
愛してる、ルカ、リリス。
「殿下、どうか子供たちだけにはお情けを。」
メリアンは必死に訴え、手首を差し出した。
どんなに覚悟を決めたからと言って、腕も指も、恐怖で震えてしまう。
前世では自分で死を選んだのに、大切なものが出来、死ぬことがこんなに怖いなんて。しかし王子はメリアンの腕をつかむと、メリアンを自身の胸元に引き寄せた。
縛られる覚悟だったメリアンは驚いた。
「な・・・なんでしょうか。」
「ずっと、探していたと言っただろう。」
「私を打ち首にするために。」
「何を言っているのだ。とにかくお前を王宮に連れていく。」
王子との予想外の接触に、ついドキッとしてしまったが、メリアンは自分を戒めた。
(メリアン、何勘違いしているの。これは抱擁ではなく、拘束よ。)
王子の腕の中に閉じ込められているだけ。自分は王子にとっては憎き存在なのだから。
「こ、子供たちは・・・」
「子供たちも一緒にだ。」
王子の言動に、メリアンは困惑した。
このままどうにか逃してもらい、三人で静かにこの地でいつも通り暮らしたい。けれど、騎士団に囲われ、今は王子の言うことに従う他ないように思えた。