いつどこで誰が何をした


「そうだそうだ!」
「もったいぶらないでよー」
「はやくぅー!」

話は戻って、担任の歯切れの悪い紹介に一軍メンバーが文句を言い出す。
他のクラスメイトもやいややいやとブーイング。

「あ、ああ、わかったわかった。ええ転校生は女子生徒なんだが…彼女のご両親は学校にも多額の寄付をしてくださっているご立派な方で…えーだからだな…」
気まずそうに視線を泳がせる担任。
「も、もちろん同じクラスの仲間だが…あのー…彼女のお父様が…立派な方で、だから…その」


あーなるほど。
「平等」とか「公平」とかそういう言葉が大好きな教師がねぇ。
まさかその立場にいながら大人の事情を包み隠さず、いや隠せず教室にぶっ込んでくるとは。

ちょっと担に〜ん。SNSで拡散されちゃうよ〜
こんなご時世なんだから発言には気をつけないと〜


「まあだからなんだ!その、知っておくように!」
諦めたな。
「えー何それー全然わかんないんだけど」
ぶっきらぼうな声が後ろの方から飛んでくる。

渡辺華
陸上部のエースで鋭い目とスカートの似合わないメンズカットの髪が特徴的な一匹狼の女子生徒。

「要するにどうすればいいんですかー!俺たちは!」
その隣に座っていた横澤よしきが揶揄うような声で言った。
よしきはみんなと仲が良くていつも明るい奴だ。僕は割と好き。

便乗してクラスメイトも口々に文句を連ねる。


「媚びを売れってことですか?」

あらま言っちゃうのねそれ。怒られるぞー…と思ったけどその心配はなさそうな人物だった。
そう言ったのは廊下側の一番後ろに座っている、男子生徒、枕崎スイ


外見はこの上ないほどパーフェクトで韓国人とのハーフ。初めてみた時は流行りのKPOPアイドルか何かかと思った。癖のないサラサラな黒髪と少し日本人離れした造形美の完璧な顔立ち、さらにさらに高身長といった神様のえこひいきの結晶。もうモッテモテ。

成績はダントツ学年トップ、運動神経も文句なし。一年にして県大会で名を残すほどの剣道の達人。
いわゆる人間国宝だ。クールで大人っぽくあまり人と馴れ合わないイメージがある。

そんな滅多に口を開かない枕崎が喋ったもんだから女子がざわざわし出す。


「な、何を言っているんだ枕崎」
先生も枕崎には一目置いているようでいつも下目に出ているような気がする。得だよなぁ、ああいう人って。
「まあ、なんでもいいんですけど」
枕崎も先生の言いたいことはわかったらしい。
…ま、わかったところで何って話だけど。


「よ、よし!じゃあ紹介するぞ」
変な空気になっていたクラスを先生の手を叩く音が無理やり締め直させる。

教室にまたワクワクの騒がしさが戻ってきた。

< 10 / 334 >

この作品をシェア

pagetop