いつどこで誰が何をした


「『飛び降りる』は実行できたからよかったけど…『泳ぐ』はダメだったでしょ?その言葉を入力した人間のせいで大本くんは死んだんだよ!」
中村が立ち上がる。

おいまた悲劇のヒロイン始めんの?
勘弁してよ。

「もっと責任持とうよ…野々村の…逆立ちもそうだよ…あんなの…うぅ」

だる。
効率悪いんだよあんた。
片桐が喋るから黙っててくれないかな。


「野々村ぁ…」
泣き崩れる中村。

悪いけど可哀想とは思えない。
何度も言うようだけど、死んだ人間よりこれからその可能性のある生きてる人間を優先するのは至極当然のことだ。

そんなことも分からないなんて効率悪いし邪魔くさい。対して役立つ案も出せないなら静かにしててほしい。


前に立つ片桐も僕と同じような顔をしていた。

そりゃそうだ。彼は時川を失っている。
でもそんなことを嘆きはしなかった。
無理やりにでも切り替えて、こうして仕切ってくれている。

彼女の隣の席の枕崎も視線すら向けず無関心だ。
山野の名前が上がった時とは大違いだな(笑)


あまりにも泣き止まないので痺れを切らした片桐が無視して話を進めようとした。

しかし


「すまん!!」
え?

後ろの席に座る立花慎一郎が席を立った。
頭を下げて拳を強く握っている。


「…すまん…。野々村の時…『逆立ちした』を入力したのは…俺だ」
へぇ。
「それから…大本の『泳いだ』も…俺だ」
あーそうなの。

中村が泣きじゃくった酷い顔で立花を見る。


「…野々村の時はまだただの遊びだと思ってたから面白いのにしようとしてあんなのを選んだ」
別に面白くないけどね、全然。

「大本の時は…前夜寝落ちしてて返信するのがギリギリになっちまったんだ。慌てて色々入力したけど無効内容で弾かれてばかりだった…
だから焦って…とりあえず思い浮かんだ動詞を片っ端から入れていったんだ…それでたまたま入ったのが『泳いだ』だった」


…無効内容で弾かれる。
時間がギリギリ…

なるほど。
似たような言葉をいくつも入力すると弾かれるようになっているのかもしれない。
時間が遅ければ安全な言葉はもう他の連中が取っていってしまっている。だから選択肢が減るんだ。


「…すまん。もっと慎重になるべきだった…」
立花が頭を下げる。

野球部で大本の次にガタイが良くて強面のため、僕は必要以上に会話をしたことはなかったけど
案外いい人なのかもしれない。


「…今後はもっと気をつ…け…」




……え?



< 102 / 334 >

この作品をシェア

pagetop