いつどこで誰が何をした
僕をひかるさんと呼ぶのは彼女だけ。
「久遠さん?どうしたの」
後ろの席の転校生が窓の方へ首を傾けて僕を見ていた。
「…あ、いえ……なんだか、すっきりしたような顔をしてらっしゃったので…」
「ああうん。少しずつわかることが増えてきたし、このゲームをお、終わらせる糸口が見えてきた気がしてさ」
「…そうですね。少しずつでも確実に私たちは出口に向かってますよね」
…
「そうだね」
「それで…さっき少し話した今後の『何をした』の入力内容のことだけど…」
…あ。
「待って片桐」
久遠さんから視線を外して片桐を見る。
片桐がぽかんとしてる。
「何?」
「…やっぱりやめよう」
「え?」
「入力内容を指示すること、やめよう」
片桐が何か言おうとしたが、立花のことを思い出したのか息だけ吸って止まる。
「…入力内容を指示するのも…危険ってことか?」
「確信はないけど『いつどこで誰が何をした』のゲームで、誰が何を書くのかを指示してしまうのはルール違反とみなされても不自然じゃない」
「…確かに、そうか」
「これ以上犠牲は出したくない」
「…ああ」
「だったら入力内容を決めるのはやめておこう。万が一って場合がある。時川がいなくなった今、片桐までいなくなるのはダメだ」
「………わかった。じゃあみんな…明確な指示はしない。でも危険な言葉は使わないでくれ…。今はそうとしかいえない」
片桐がぎりっと歯を食いしばった。
忘れちゃいけない。
このゲームはどうしても犯人の都合がいいように動く。
僕たちが見つけた光は、犯人の都合によって簡単に消されてしまう。
これは理不尽極まりない、そんなゲームであると言うことを心していなければ
それを忘れた時、訪れるのは『死』のみだ。
死と隣り合わせどころか…常に目の前にそれがあるような状態。
きっと『普通』に生きていたら絶対直面しないであろうそんな恐怖。
…いや、それは嘘か。
だって僕は、他のクラスメイトも、いわゆる『普通』の人生を送っていた。
でもなんの前触れもなく、僕らはこのゲームに巻き込まれ、死を目前にしている。
『普通』に生きていたのに、こんな非現実に巻き込まれている。
ほらやっぱり『普通』なんて言葉、いい加減なんだよ。
いや、もしくは、日常が一変して途端に異常な世界にぶち込まれることも、誰かの『普通』なのかもしれない。
そんなことわからないけど、少なくとも僕にとって現状が異常であることには違いない。
そして退屈な日常を取り戻すことはできないと知っている。
たとえ僕がそれを望んでいようが望んでいまいが。