いつどこで誰が何をした
「じゃ、じゃあ」
久遠さんに向き直った先生。
テンパりすぎてダサいよ。
「席は、あそこで…」
先生が指差したのは僕の後ろの席。
まあそうなるよね。ずっと空席だったし。
「はい」
久遠さんは可憐に笑って僕の方へ歩いてきた。
優雅で堂々としてるなぁ品があるよー
シャラリラシャラリラ…
ガコンッ
え?
大きな音がしたと思ったら久遠さんが教卓につまずいてバランスを崩していた。
その反動でカバンを派手に放り投げてそれが僕のところまで飛んできたと思えば、それを咄嗟に追いかけてきたのであろう久遠さんもろとも僕の席へダイブした。
「おわっ!」
ガシャーン!
僕は鞄はキャッチしたもののまさか久遠さんごと飛んでくると思わなかったので受け止められず、僕の足元に久遠さんが倒れた。
しばらくの沈黙
「…あー大丈夫?」
僕が声をかけると勢いよく顔を上げ優雅に笑った。
「ごめんなさい。ちょっとつまずきました。お怪我はないですか?」
いや、もうつまずいたとかのレベルじゃなかったと思うけど…飛んでたよ君。
しゃがみ込んだまま髪をサラッと払い、鞄を受け取ろうとする久遠さん。しかし立ち上がる時に机の角でガンと頭をぶつけた。
クラス中が沈黙している。
久遠さんは何事もなかったかのように優雅に立ち上がり、スカートの埃を払って静かに席へ座った。
……
いや、いやいやいやいや
「ふッ」
僕の口からこぼれた息。
それが引き金になって笑い込み上げてくる。
「ふっ…ふはっ、あっははは!緊張しすぎだよ!んふふ、切り替え早すぎ!」
情報量多すぎでしょ、どれか一個にしてくれよ。
静かなクラスに響く僕の笑い声。
久遠さんはぽかんと僕を見ていたけど次第にくすくすと笑いだした。
「ごめんなさいちょっと緊張しちゃって、フフッ」
「ちょっとなんてレベルじゃなかったよ!あははっなんであそこまで畳み掛けられるわけ?逆にすごいって!」
二人の笑い声が響く中、僕の後方でも息の漏れる音が聞こえた。
「ふはっお嬢様にしては上出来だろ。見事見事」
柳谷が軽い笑いをこぼした。
「ふふ、怪我はない?」
山野もちょっと笑ってた。
お偉い財閥のお嬢様がきて、先生もみんなもかしこまっていたけれど
僕たちに感化されたのか、所々で笑いや心配の声がする。クラスの雰囲気が柔らかくなった。
かなり濃いめのスパイスだったみたいだ。
「取り乱してごめんなさい」
久遠さんが恥ずかしそうに笑った。
まだどこかぎこちないけど、いつもの毎日が再び始まる。
そんな秋の朝。